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消えてしまいそうな魂の叫び声~ジョンの素顔その2

2016.10.13

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 ヘルプ!
 誰かが必要なんだ
 ヘルプ!
 誰でもいいってわけじゃない
 ヘルプ!
 誰かが必要なんだよ
 助けてくれ!

 ビートルズにとって2作目の映画となる『4人はアイドル』の主題歌であり、10枚目のシングルにもなった「ヘルプ!」は、そんな悲痛な叫び声から始まる。
 何故、ジョンは叫んだのか。
 歌詞は次のように続く。


 僕がまだ若かった頃
 今日よりずっとずっと若かった頃
 どんな時だって
 僕は誰かの助けを求めたことはなかった

 状況は突然、変わるわけではない。
 だが、主人公は自らが絶望的な孤独の中にいることに、ある日、突然、気づくのである。

 ジョンが「ヘルプ!」を歌ったアルバム『4人はアイドル』の中で、ポールは「イエスタデイ」を歌っている。ちなみに、「ヘルプ!」と「イエスタデイ」の2曲だけが<ひとつの単語による曲タイトル>なのだが、「イエスタデイ」の中でも、ポールは突然の孤独を歌っている。


 イエスタデイ
 悩みなどはるか彼方と思えたが
 今や苦はここにいついたのか
 ああ、まだ昨日という日を信じている

 ポールが歌った孤独は、彼女が去っていってしまったことによる寂しさである。


 何故、彼女は行ってしまったのか
 僕にはわからないし
 彼女もそのわけは言わなかった
 僕が何かいけないことを言ったのだ
 昨日という日が恋しい

「イエスタデイ」の歌詞はロマンティックで感傷的に響く。そして何より、歌の主人公はまだ「昨日」という思い出の中を生きているのである。



 それに対して、「ヘルプ」の主人公は、昨日という大陸から流された船に乗せられた漂流者のようだ。


 今や僕の人生はいろいろな面で変わり
 僕という存在は
 靄の中に消えたのだ

 ここでは、「インディペンデンス」という言葉を「僕という存在」と訳した。

 少年時代。ひとは「家」や「親」や「地域」に守られながら、「自分という存在」を確立している。
 だが、大人になる、ということは、そんな確か、と思われたものから旅立つことなのである。
 インディペンデンス=自立することとは、ひとりで立つことであり、何物にも頼らないことだが、それはそう簡単なことではない。
 普通、大人になるということは、新たに「会社」やその他に帰属することで、新たなる安定を求めることに過ぎない。

 この「ヘルプ!」が発表された1965年。ビートルズは人気の頂点にいた。翌1966年にはツアーで歌うことをやめてしまう彼らだが、ジョンはこの当時を振り返って次のように語っている。

「暴飲暴食を繰り返し、豚のように太っていく自分自身に失望していたのさ」

 太ってしまったエルヴィスのように、ともジョンは話している。
 そんな日々が、彼の「自立」を邪魔し、彼を孤独に追いやったのだろう。


 できるなら
 助けてくれよ
 落ち込んでるのさ
 近くにいてくれるなら
 感謝するよ
 この僕をまた
 大地に立たせてほしいのさ
 頼むから
 お願いだから
 助けてくれよ
 ヘルプ・ミー!

 そばにいて欲しい。
 孤独と絶望の中にあっても、ジョンの願いはささやかである。だが「そばにいてくれる」ことは、難破船で漂流する彼にとって、命綱だったに違いないのである。
 昨日という思い出を歌ったポールと、今日という孤独を歌ったジョン。
 ビートルズが大人になる瞬間である。



The Beatles『Help!』
EMI

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