TAP the ROOTS

リーダーであることをやめたジョンの、たったひとりのベッドイン

2016.10.20

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 アルバムの1曲目はどの曲にしようか。
 針を落とすレコードの時代には、今よりずっとずっと大切な問題だったはずである。
 ビートルズが発表してきたアルバムの1曲目は、誰が歌ってきたのか。

『プリーズ・プリーズ・ミー』(1963)では、ポール・マッカートニーが歌う「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」
『ウィズ・ザ・ビートルズ』(1963)では、ジョンが歌う「イット・ウォント・ビー・ロング」
『ハード・デイズ・ナイト』(1964)では、ジョンとポールが歌う「ハード・デイズ・ナイト」
『ビートルズ・フォー・セール』(1964)では、ジョンとポールが歌う「ノー・リプライ」
『ヘルプ』(1965)では、ジョンが歌う「ヘルプ」
『ラバーソウル』(1965)では、ポールが歌う「ドライヴ・マイ・カー」

 ビートルズがアルバムの1曲目は、常にジョンかポールの歌声で始まっていたのである。
 だが、1966年に発表された『リボルバー』では、ジョージの歌う「タックスマン」が1曲目に収められている。2曲目はポールの歌う叙情的な「エリナー・リグビー」が続き、ジョンが歌うのは、3曲目の「アイム・オンリー・スリーピング」である。
 ジョンはけだるそうに歌い出す。


 朝早く目覚めた僕は
 頭を起こし
 まだ欠伸をしている

 ジョージが税務署を皮肉り、ポールが教会で寂しく死んでいった孤児を悼んだ後、である。前作『ラバーソウル』で「ガール」、「ノルウェイの森」という名曲を書いたことで達成感を感じてしまったのか、気が抜けてしまう者もいるだろう。
 とにかく、眠い、寝たいのだ、と歌詞は続くのである。


 頼むから起こさないでくれ
 嫌だ、揺すらないでくれ
 ひとりにしといてほしい
 僕はただ眠てるだけじゃないか

 この歌には、様々な解釈がある。
 実際、ジョンはベッドが好きだった。本を読むのも、テレビを観るのも、ギターをつまびくのもベッドの上が好きだった。そんなジョンを怠け者だと言う人間もいたのだろう。ジョンは歌詞で反論するのだ。


 誰もが僕を怠け者だと
 考えているらしい
 どうでもいいさ
 おかしいのはみんなの方さ
 あんなスピードで
 どこかしこと走り回ってる
 そんな必要などないと
 気づくまでね

 それは目まぐるしいツアーの中、ジョンの目に映った社会なのかも知れない。
 だが、この観察者の態度は、翌1967年に発表される『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に収録されるポールの作品「フィクシング・ア・ホール」に引き継がれることになる。



 ポールは心の平静を脅かす対象を「穴」と呼んだ。そこから雨が入り込んでくるのだと。そして雨漏りを修繕した部屋の窓から、外の世界にいる人々を見下ろすのだ。


 あそこに立っている人たちを見てごらん
 答えの出ない言い争いに明け暮れる人たち
 何故彼らは僕の部屋のドアをノックしないのだろう

 ポールのそんな歌声に呼応するのは、ジョンが歌うこの部分である。


 窓辺で起こりつつある世界に
 この目を向けている
 僕の時間を使ってね

 ジョンとポールは、静かなる抗議、を始めたのだ、と指摘する声もある。そしてジョンのその態度は、ヨーコとともに行う「ベッドイン」につながっていく。

 ジョンはもう不満に大声をあげシャウトする若者ではなかった。彼は静かに抗議する者になろうとしていたのだろう。

 そしてそれをフォローするジョージは、ジョンの歌声に複雑な処理を施したギターソロを添えた。
 彼は一度録音したギターソロを逆回転させ、その逆回転することで聞こえる音を楽譜に落とし、今度はその楽譜通りにギターを弾きなおし、その弾きなおしたギターソロをさらに逆回転させることで、不思議な雰囲気を出そうとしていた。

 ビートルズがレコーディングに時間を使いたいと思うようになるのも当然だったのである。



ビートルズ『リボルバー』
Universal

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