TAP the ROOTS

サマータイムを思い出した夜

2017.07.27

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 1970年。アルバム『イン・ロック』を録音し終えたばかりのディープ・パープルのメンバーは苛立っていた。
 前作『ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ』の評判は上々だったが、キーボード奏者、ジョン・ロードがリードするクラシック路線から、もう一度ハードロック路線への転換を計ろうと、全身全霊を込めて録音した作品だった。「チャイルド・イン・タイム」をはじめとした大作が並ぶ、納得がいくレコーディングだった。



 だが、レコード会社は彼らに冷たい言葉を投げかけた。
「シングルになるような曲がないじゃないか」
 バンドのメンバーはその言葉を背に、スタジオを出ると、近くのバーに逃げ込んだ。

 俺たちはハード・ロック・バンドなのだ。チャラチャラしたポップなシングルなど、作れるか!
 メンバーたちは、愚痴を言い合いながら、酒を飲んだ。
 だが、レッド・ツェッペリンの成功にも、シングル・ヒットが寄与していることは確かだった。そして、しこたま酒を飲んだ後、メンバーはスタジオに戻った。

 酒に酔った時、人は正直になる。
 そして自然と、自分が好きだった音を思い出す。
 自分たちはこうあるべきだ、自分はこう演奏すべきだといった想いは消え、ただ気持ちいい音をプレイするようになる。

 リッチー・ブラックモアが弾き出したギター・リフに合わせて、バンドが演奏を始める。リッチーが思い出したのは、リッキー・ネルソンの「サマータイム」だった。
 リッキー・ネルソンは1940年生まれのアメリカのシンガーである。俳優としてデビューした彼がシンガーとなり、「サマータイム」を歌ったのは、1962年、22歳の時だった。
 1944年生まれで、リッキー・ネルソンより4つ年下のリッチー・ブラックモアがそのヒット曲を耳にしたのは、彼が18歳だった時のことである。



 だんだんと、曲の輪郭ができあがってくる。
 次は、イアン・ギランの番である。ボーカルのイアンは、この曲に合った歌詞を乗せようとする。そしてふと、ある曲のタイトルを思い出す。それが「ブラックナイト」だった。
 イアン・ギランは、アーサー・アレキサンダーが1964年に歌った「ブラックナイト」を思い出したのである。
 アーサー・アレキサンダーは、アメリカのディープ・サウスのソングライターだが、地元アメリカ以上に、イギリスで人気があった。
 ビートルズが初期にカバーした「アンナ」も、彼の作品である。



 こうして出来上がった「ブラックナイト」は、見事、シングル・ヒットとなる。そしてアルバム『イン・ロック』も大ヒットとなった。
 当初「イン・ロック」には収録されなかった「ブラックナイト」だが、アニヴァーサリー・エディションには「イン・ロック」の1曲として収録されている。

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