TAP the ROOTS

絵空事のような会話から生まれた奇跡のバンド

2017.10.12

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 1988年。ジョージ・ハリスンは、5年ぶりに発売し、大ヒットを記録していたアルバム『クラウド9』からの3枚目のシングルとして「ディス・イズ・ラヴ」を発売しようとしていた。だが、カップリング曲が決まっていなかった。アルバムに収録されているものではなく、新しい曲にできないか、というのがレコード会社の要望だった。
 ジョージは、早速『クラウド9』のプロデューサーだった元エレクトリック・ライト・オーケストラのジェフ・リンに相談を持ち掛け、新曲の構想を練った。
 アイディアの骨子ができると、2人はスタジオに入った。カリフォルニア州サンタモニカにあったボブ・ディラン所有のスタジオだった。セッションは和気あいあいと進んだ。

「このままバンドを組もうか?」
 突然、ジョージが言った。
 ジョージといると、信じられないことばかりが起こるのだと、ジェフ・リンはローリング・ストーン誌のインタビューで回想している。他に、バンド・メンバーは?とジェフは聞き返した。
「ボブ・ディラン!」
 ジョージの口から真っ先に出たのは、信じられない名前だった。
「嘘だろ!」
 思わずジェフは口走った。だが、その場の雰囲気を壊すのも大人げない。ジェフも夢のバンド・メンバーを選んでみせた。
「ロイ・オービソンは?」
 ロイ・オービソンは、ジェフの子供の頃からのアイドルだった。
「ロイ・オービソン! いいね。大好きだよ」とジョージは言った。そして、思い出したのである。トム・ペティにギターを預けてあったことを。

 トム・ペティは、ジョージ、ジェフ、共通の友人だった。特にジェフは、トムと「アイ・ウォント・バック・ダウン」を共作したばかりだった。
 ジョージは本気なのだ、とジェフは思った。トムはハートブレイカーズと共に、ボブ・ディランのツアーをサポートしていた。不可能だと思っていた夢のバンドの、ひとつひとつのピースをジョージは無邪気な子供のように寄せ集め、はめ込んでいった。

 そして、奇跡的なセッション・バンド、トラヴェリング・ウィルベリーズは誕生したのである。
「ボブ・ディランが創作する現場に立ち会えたことは、とても印象深かった」と、トム・ペティは語っている。様々なアイディアがぶつかり合う時、それを解決してしまうような魔法の言葉をディランが紡ぎ出していく現場は、ただ一緒にステージに立つことでは味わえないものだった。

 それぞれレコード会社が異なるため、覆面バンドとなったトラヴェリング・ウィルベリーズは、『トラヴェリング・ウィルベリーズ Vol.1』を10月にリリースする。
ジョージのカップリング曲として作られた「ハンドル・ウィズ・ケア」は、アルバムの1曲目に収められた。

 トラヴェリング・ウィルベリーズにはコンサート計画があった。
「トラヴェリング・ウィルベリーズであるからには」と、ジョージはアイディアを出した。
 コンサート・チケットを買ったファンは、空港に集まる。そして飛行機に搭乗し、機体が離陸すると、バンドが登場し、演奏を始めるというのである。
 だが、こちらの夢は叶わなかった。
 その年の終わり。ロイ・オービソンが52歳の短い人生に突然、幕を降ろしたからである。



トラヴェリング・ウィルベリーズ『トラヴェリング・ウィルベリーズ Vol.1』
Wilbury Records

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