TAP the ROOTS

人を好きになること。歌はいつも、そこから始まる。ボーカロイドから聞こえてきた歌の今。

2018.01.04

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 大晦日。
 横浜アリーナでは、桑田佳祐の全国アリーナ&ドームツアー『桑田佳祐LIVE TOUR2017「がらくた」』のファイナルとなる公演が行われてきた。21時半に始まったコンサートも2時間近くが過ぎた頃、ステージにNHKの有働アナウンサーが登場すると、横浜アリーナとNHKホールが中継で繋がった。
 あと少しで、1年が終わる。
 横浜駅では、家へ帰ろうとする人々と、初詣に出かけようとする人々の流れが交差していた。横浜アリーナに出かけることもなく、紅白をコタツで楽しむこともしなかった人々。そして、そんな人たちからも離れ、駅近くのゲームセンターで黙々とゲームスクリーンを叩いている若者たちがいた。いわゆる、太鼓の如く、リズムに合わせてスクリーンを叩くゲームである。彼らは、大晦日の酔いに任せて、何となくそのゲームセンターに立ち寄ったのではないことは、そのいで立ちから見てとれた。彼らは、スクリーンを叩くために、白い手袋をしていたからである。
 ひとりがゲームを終えると、その友人がまた同じ曲をプレイし始めた。そして大音量のビートの合間からは、中国語が聞こえてきた。
 確かに、中国からやってきた人たちには、日本の正月は関係がない。彼らにとっての正月はいわゆる、旧正月である。
 だが、そのビートは耳に残り、彼らの楽しそうな話声が頭から消えることはなかった。

 除夜の鐘がなり、平成29年は、平成30年となった。
 テレビでは、恒例の討論番組が放映されていた。パネラーの中には、少し前の漫才番組で沖縄の基地問題に触れ、共産党の志位委員長から、すごい才能だと絶賛された漫才師の顔もあった。中国の環球時報のインターネット版は、「日本の芸人、釣魚島が『侵略』されたら、白旗をあげて投降する」という見出しで、その漫才師の番組での発言を紹介した。彼は、ある意味「インフルエンサー」として期待されているのだろう。
 だが、彼の言葉は、アイドルグループの歌と同じように、どこか白々しく聞こえた。

 だが、まさにその夜。
 ツイッターのあるつぶやきが飛び込んできた。
「この曲が好きすぎて泣けてくる」
 それは日本で生まれた中国人のつぶやきだった。彼が好きすぎると言及した曲は、ボーカロイドの「いーあるふぁんくらぶ」という楽曲である。
 台湾や香港の俳優のファンになったことがきっかけで、中国語を学び始めた日本人の歌。ビートがきいたダンサブルなこのナンバーが作られたのは、2012年。ボーカロイドとしては初のミリオンヒットとなり、その後、様々なゲームなどにも使われている。つぶやきの主は、この曲の中の、次のフレーズに泣けてくる、のだと語っている。


リア友は減ったけど、それもしかたないや
それでは踊りましょう


 中国語を学び始めたことで何故、リア友が減ったのかは、わからない。だが、自分とは違う文化背景をもつものを好きになることで、それまで育った文化グループの友達が減ってしまうということは、彼には説得力があるのだろう。
 ちなみに、リア友、という歌詞は、中国語版では「三次元朋友(サンツーユェンポンヨウ)」である。そう、この楽曲には中国語版があるのだ。
 何気ない歌詞が、人々の心に染み入っていく。
 それが歌の力である。
 歌にはまだまだ力がある。正月くらいは、そう信じたい。

 ゲームセンターで流れていた曲は、「いーあるふぁんくらぶ」だった。憎しみを、対立を煽るのではなく、君を好きだということ。この旧正月には、チャイナ・タウンにでも出かけてみようかと思う。


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