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悪魔を憐れむ歌~小説から蘇った悪魔

2023.12.05

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クリーンなイメージのビートルズに対して退廃的なバッドボーイ、ストーンズという図式を決定づけた曲のひとつが「Sympathy for the Devil」(「悪魔を憐れむ歌」)だ。

だがストーンズは単なる悪ガキなどではなく、ある種のインテリ愚連隊だった。

『巨匠とマルガリータ』という小説がある。
ロシア人作家、ミハイル・ブルガーコフが1929年から1940年にかけて執筆した長編で、ソ連政府の検閲もあり、出版されたのは彼の死後、1966年のことである。

物語は、モスクワの公園から始まる。キリストは後世のでっち上げだと話す文芸誌編集長と詩人。
その場に謎の男が現れる。彼はイエスが実在したことをする、と言う。何故なら彼は、ユダヤ総督ポンテオ・ピラトの屋敷に居合わせたというのだ。

「わたしはこの男(イエス)に罪を見いだせない」と言って自らの手を洗いながら、民衆の総意として、イエスを十字架に送った男である。

ブルガーコフの小説にインスパイアされたのだろう。歴史の重大事に居合わせた、というイメージをミック・ジャガーはそのまま膨らませていった。

十字架に架けられたイエスの物語についで、ロシア革命、第2次世界大戦、ケネディ暗殺と展開されていく。そしてこの事件の目撃者こそ「悪魔」だというわけだ。悪魔は最後に、その正体を堕天使ルシファーであることを明かす。。。

この曲は当初「ザ・デヴィル・イズ・マイ・ネーム」というタイトルがつけられていた。そしてそのサウンドはボブ・ディランを彷彿とさせるフォークバラッド形式だったという。

「その曲に俺がベースを弾き、ギターを被せていった。それで、狂ったサンバのような曲になったのさ」


とキース・リチャーズは語っている。

そして、最後の魔法が「ウー、ウー」という呪術を思わせるコーラスだった。

録音スタジオでこの魔法を放ったのは、アニタ・パレンバーグだった。キースが当時付き合っていたガール・フレンドであり、元ブライアン・ジョーンズの恋人であり、女優である。

彼女があのコーラスをスタジオでつぶやいたのだ。アニタだけでなく、ミックのガール・フレンドだったマリアンヌ・フェイスフルもこのコーラス録音に参加することになった。

「Sympathy for the Devil」を収録した『Beggars Banquet』は1968年に発表されると各方面で絶賛され、ここからストーンズは黄金期を迎えることになる。

ところで、キースは悪魔についてこんな発言を残している。

「奴はいつだってそこにいるさ。俺は何度もルシファーに会ったことがある。世間の連中は、悪魔を埋め、厄介払いできたように考えてるらしいけどな」


自己紹介をお許しいただけるなら
私は富とセンスの男
長き年月各地を旅し
人の魂と信仰心を奪いし者

イエス・キリストが神を疑い
苦痛に喘いだ時に居合わせ
ピラトが手を洗い
イエスの運命を封印するよう手はずした者

初めまして
私の名はご存知かと思う
おっと、あなたは戸惑いのご様子
私のゲームの本質を知らずに

私がサンクト・ペテルブルグあたりに居合わせると
それはまさに変革の時
皇帝(ツァー)と聖職者たちを殺すと
皇女アナスタシアは空しく叫んだもの

戦車に乗った私の
肩書きは将軍
電撃戦は激化し
死体は異臭を放ったもの

初めまして
私の名はご存知かと思う
おっと、あなたは戸惑いのご様子
私のゲームの本質を知らずに

私は歓喜をもって眺めたものだ
王と女王たちが
自ら造り出した神々のために
百年(戦争を)戦うのを

私は叫んだ
「ケネディー家を殺したのは誰だ?」
結局のところ
それはあなたとこの私

自己紹介をお許しいただけるなら
私は富とセンスの男
吟遊詩人たちがボンベイまで
たどり着けずに死ぬよう
罠を仕掛けた者

初めまして
私の名はご存知かと思う
おっと、あなたは戸惑いのご様子
私のゲームの本質を知らずに

どの警官も犯罪者であり
すべての罪人が聖者であり
表裏一体だ
私をルシファーと呼ぶがいい
私は必要あって生かされる力と知るがいい

だから私と会ったなら
礼節を持ち
憐みを持ち
センスよく接するがいい
学びうる限りの礼儀を示さない限り
あなたの魂を無きものにしてやろう

初めまして
私の名はご存知かと思う
おっと、あなたは戸惑いのご様子
私のゲームの本質を知らずに

言ってごらん、ベイビー、私の名前を
言ってごらん、ハニー、私の名前はご存知のはず
言ってごらん、ベイビー、私の名前を
一度だけ言ってやろう、悪いのはおまえだ

私の名前を
言ってごらん、ベイビー、私の名前を
言ってごらん、スウィーティー、私の名前を



The Rolling Stones『Beggars Banquet』
USMジャパン



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