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スプリングスティーンとサッカーの本田圭佑を結ぶひとつのキーワード

2018.03.08

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 2012年3月6日に発売されたブルース・スプリングスティーンの17作目となるアルバム「レッキング・ボール」は、その年のローリング・ストーン誌のベスト・アルバムに選ばれた。そしてこの作品のコアとも言えるのが、シングル・カットされた「デス・トゥ・マイ・ホームタウン」である。


貪欲な泥棒たちは
姿を現すと
目に入ったものすべてを
食い尽くしていく


 ブルースは、2008年に起きたリーマン・ショック後の経済危機で、故郷の町が死んでゆく様を描いていった。


奴らの罪が裁かれることはなく
奴らは今も自由の身で
この通りを闊歩する


 未曽有の経済危機の中でも、一部の人間たちは肥え太っていった。そしてアメリカの経済格差は、1対99と言われるまでに膨らんでいった。
 ブルースは、この状況を戦争にたとえてみせた。
 砲弾とも無縁な、ライフルで撃たれたわけでもなく、血が流れたわけでもない。だが、確実に町を死に至らしめたのは、奴らなのだ、とブルースは歌った。強欲な金融資本主義に対するプロテストである。
 ブルースはこの曲を、古いケルト民謡の香りをまとったロック・チューンに仕上げてみせたのである。

 さて。
 2008年の経済危機から10年。
 世の中は、どれほど変わったのだろうか。最近、サッカーの本田圭佑選手が自身のアプリで、行き過ぎた資本主義の流れに警鐘を鳴らすような発言をして、話題になっている。(本田圭佑オフィシャルアプリが登場! 本田圭佑オフィシャルサイト


だから、若者よ、聞くんだ
奴らがやってくるのに備えろ
日がまた昇るように
奴らは戻ってくる


 ブルースは、そのためにも、歌える歌を持て、と言うのである。

 本田圭佑は、何故、イタリアの名門チームからメキシコに渡ったのだろうか。一般的にそれは、ワールドカップ・メンバーに選ばれるためだと言われている。だが、日本代表に戻るため、メキシコがベスト・チョイスだったのかといえば、謎が残る。今、彼はメキシコで活躍を続けているが、そうなるとは、誰にもわからなかったことだ。

 ブルースにとっての歌は、本田選手にとっては、サッカーだった。そしてサッカー界もまた、湯水の如く注ぎ込まれる海外からのマネーに溺れそうな世界なのだ。
 本田選手の発言と、彼がメキシコで活躍していることは、どこかで関係があるように思えるのだ。
 スプリングスティーンが、ケルトの香りでその曲を包んだように。


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