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フェイマス・ブルー・レインコート~もう一人の自分に宛てた手紙

2014.05.22

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前回、母親とその新しい夫を前にした主人公を歌ったエリオット・スミスの「Waltz#2」を紹介しました。
カラオケを舞台としたちょっとかわった三角関係の物語でしたが、今回も三角関係の物語です。

主人公。その妻。そして第三者である「君」。
主人公と「君」は友人関係にあり、「君」はまた、主人公の妻を娶った男でもある。そして主人公はそんな「君」に不思議な想いを馳せる。。。

レナード・コーエンが書いた「Famous Blue Raincoat」は多くのシンガーにカバーされていますが、この曲は最初「手紙」というタイトルでした。
主人公が「君」に手紙を書く、というスタイルをとっているためです。

この歌でレナードは、分裂する自己をふたつに分けて表現しました。
ひとりは都会で暮らす主人公であり、もうひとりは、悟りを求めて砂漠の地へと向かった「君」です。
実際、レナードはニューヨークを離れてギリシャの孤島で暮らしたことがありました。
また、青いレインコートも、彼が着ていたバーバリーのコートだと言われています。

ユダヤ人祭祀の家で育ったレナードは、サイエントロジー、禅、など精神的な放浪を続けながら歌を書いていました。
そして現実と理想の狭間で揺れ動くことこそが、彼の人生そのものだったのです。



今は朝4時
12月の終わり
元気でいるかと君に手紙を書いている
ニューヨークは寒いが、ここでの暮らしを気に入っている
クリントン通りからは一晩中、音が聴こえてくる

砂漠深く小さな家を建てたという話を耳にした
無に生きる君のことだが、
何某かの記録をつけていてくれればと思ってる

そう、ジェーンは君の髪を一掴み持ち帰ってきたよ
君からもらったのだと言って
君が悟りを開くことを決めたあの夜さ
悟りは開けたのかい?

最後に見かけた時
君はずいぶんと老け込んで見えたし
有名なブルーのレインコートも肩のところが綻んでいた
駅に出向いては列車という列車を待った君だが
結局、リリー・マルレーンは現れず
ひとり家路についた

そして私の彼女を君の人生のかけらにしたわけだ
戻ってきた時
彼女は誰の妻でもなくなっていた

君の面影が目に浮かぶ
歯の間には薔薇
痩せこけたジプシーの泥棒よ
おっと、ジェーンが目を覚ましたようだ
よろしく、と言っている

何を語ればいいのか
私の兄弟よ、殺人者よ
どんな言葉があるというのだ
君がいなくて寂しいし、許しているんだろうと思う
私の前に立ちはだかってくれたことを嬉しく思ってる

もしこちらに立ち寄ることがあるなら
ジェーンにでも、私に会いにでもいい
君の敵は眠りについている
奴の女はフリーだ

ありがとう
彼女の瞳からトラブルを取り除いてくれたことに感謝する
永遠にそのままだろうと、私は何もできなかったのだから

そう、ジェーンは君の髪を一掴み持ち帰ってきたよ
君からもらったのだと言って
君が悟りを開くことを決めたあの夜さ
悟りは開けたのかい?

親愛なる、L。コーエン





Leonard Cohen『Essential Leonard Cohen』
Sony

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