TOKYO音楽酒場

【18軒目】湯島・MUSIC BAR 道──音と人とカルチャーが多様に交差する酒場

2015.05.01

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いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく連載「TOKYO音楽酒場」。今回は、下町・湯島にある隠れ家的なロック・バーを紹介します。

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文京区湯島。春日通りと昌平橋通りの交差点に立つと、ちょっと不思議な感覚に包まれる。学問の神様・湯島天神のすぐ下にある天神下交差点には、古びた連れ込み旅館のネオンサインが妖しく光る。その四つ角を北上すると不忍池~上野恩賜公園が広がり、西側の急な坂道の先には旧岩崎邸庭園や、東大の本郷キャンパスがある。東側の上野広小路~御徒町方面に足を向ければ、細かく入り組んだ狭い路地に旨そうな料理屋や色とりどりの看板が眩しいスナック、さらにはアジアなムードを漂わせる風俗店などがひしめきあうように軒を連ねる。そして坂道を南へ下っていけば、オタク文化の聖地・秋葉原に辿り着く──たかだか半径500m程度の圏内に、これほどまでに〈聖と俗〉〈今と昔〉が入り乱れるエリアも珍しいんじゃないだろうか。そんな天神下交差点のそばに、今回訪れる〈MUSIC BAR 道〉はある。

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千代田線・湯島駅の4番出口を出てすぐ隣の雑居ビル。狭い階段を3階まで昇っていくと、黒く重たい鉄のドアがある。開けるのに初めは躊躇するかもしれないが、一度勇気を持って入れば、実に居心地のいい空間が広がる。まず目に飛び込んでくるのは、1000枚以上はあるだろうアナログレコードの棚。そして壁のあちこちには、ポップアートの作品がいくつも飾られている。オーナーの大久保裕文さんは、雑誌や書籍、広告のデザインを数多く手がけるグラフィックデザイナーだ。

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「僕は昔から千駄木に住んでるんだけど、近くに〈ペチコート・レーン〉っていうロック・バーがあって。そこに自分のレコードを持ち込んでは、大きな音で聴かせてもらってたんです。だけど、そのうち僕がかけてるレコードについて他の客から難癖つけられたりしてね。まぁ、自分の店じゃないのに、自分の店のように振る舞ってたのがいけないんだけど(笑)。だったら、音楽を自由に聴ける場所を自分で作ればいいんだと思ってはじめたのがこの店なんです」(大久保)

今でも毎週レコードやCDを買っているという大久保さんは、ライブにも足繁く通う根っからの音楽好きだ。70年代のロック/ポップスから、ニュー・ウェイブ、レゲエ、ラテン、ブラジル音楽、ポスト・ロック、さらには日本の若手ミュージシャンまで、店で流れる音楽は幅広い。

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「情報源はレコード屋の店頭、だいたいジャケ買いですね。学校を出てから音楽関係の仕事につくか美術に関する仕事にするかどちらに進もうか、働きはじめる間際まで結構悩んだけど、一番好きなものは傷つくと大変だから、二番目に好きな美術のほうに進んだんです(笑)。でも、50歳をすぎて、こういう店をやるようになったのは、自分でも面白いなって思いますね」(大久保)

大久保さんが50歳の時にオープンしたMUSIC BAR 道。当初は友人であるライター/放送作家の押切伸一さん(現在はセラピストとしても活動)がマスターを務め、大久保さんと押切さんで3年ほど共同経営していたという。その後、スタッフとして働いていた岸本とも子さんが二代目店長に就任し、2015年4月で開店6周年を迎えた。

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岸本さんも、もともとグラフィックデザイナーとして働いていたが、飲食の仕事をしたいと考えているところでタイミングよくMUSIC BAR 道で働くことになったという。彼女自身が調理も手がけるフードは、常時8〜10種類ほど揃える前菜から、カレー(この日は鶏手羽先とタケノコのマッサマンカレー)やおにぎりといったお腹にたまる定番メニュー、さらには鍋いっぱいに入った〈ムール貝の酒蒸し 香草添え〉など、もはやバーの範疇を超えてるんじゃないかと思えるほどにバラエティ豊かな料理が並ぶ。

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「レストランほどではないんですけど、ちょっといいアテがあるなってお客様に思ってもらえるようなメニューを考えています。あとは、お一人で来てもちょっとした食事になるような……そうして考えていくうちに、だんだんとメニューが増えていきましたね。ただ、決して多いとは言えない品数の中でパクチーを使った料理だったり、ちょっとエスニック寄りのが多いのは、私のカラーが出ちゃってるのかな?(笑)。ムール貝もパクチーと一緒に蒸し上げてます。いわゆるロック・バーみたいに敷居が高い感じでもなく、肩肘張ってないユルさがあるのか、女性お一人でいらっしゃるお客さんも多いですよ」(岸本)

厳選したフランス産ワインや、やなか珈琲店で焙煎した豆を使用した自家製の珈琲焼酎など、ドリンクも広く揃える。

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店では不定期ながらライブ・イベントも開催。ムーンライダーズの鈴木博文や、権藤知彦 、□□□(クチロロ)をはじめ数多くのミュージシャンがここで演奏してきた。

「一応、ひと月に1、2回イベント的なことはできたらいいなと思ってるんですけどね。ライブは基本的に持ち込み企画ではなく、お店として面白いと思うミュージシャンの方々に直接お願いして。たとえばスカートの澤部渡さんにもライブをやっていただいたこともあるんですが、もともとは大久保さんが『こんないい音楽やってる若い子がいるんだよ!』ってアナログレコードを買ってきたのがきっかけで。聴いてみたらすごくよかったので、面識もない中ホームページからコンタクトを取って出演していただいたんです。そうしたら澤部さんは昔からムーンライダーズが好きだそうで、道では鈴木博文さんがよくイベントをやってくださっていたので、不思議なつながりを感じましたね」(岸本)

2011年と2012年には、上野恩賜公園野外ステージにて〈「道との遭遇」ヒガシトーキョー音楽祭〉を開催。権藤知彦がプロデュースを手がけ、店でのイベントを発展させた形で開催されたこのフェスには、細野晴臣、高橋幸宏、鈴木慶一、鈴木博文、奥田民生、原田知世、高野寛、高田漣など豪華な面々が出演した。

原田知世×権藤知彦 with 堀江博久×白根賢一×高桑圭×内橋和久「くちなしの丘」


また、MUSIC BAR 道ではタケイ・A・サカエによるスリランカカレーのフード・イベントをはじめ、お酒を飲みながら習字や金継ぎを習うワークショップなど、音楽以外の企画も展開している。

「タケイさんはイラストレーターなんだけど、月イチでスリランカカレーのイベントをやってくれていて、毎回すごく盛況ですね。自分の好きな音楽を本気で選曲しながら、本気でカレー作ってるイベントっていうのも珍しいよね(笑)」(大久保)

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取材当日は、シンガーとしても活動するMarueccoさんによるタロット占いイベントが開催されていた。

「毎月第四木曜日に開催してます。いつもは女性のお客さんが多いですが、出版社の社長さんだったり、いろんな方がいらっしゃいますね。この店をきっかけに人と人がつながったり仕事が生まれたり、店長は結婚したし、不思議なパワーがある場所だと思いますね」(Maruecco)

「みなさん許容範囲が広いというか、何か共有できる感覚があるんでしょうね。こういうお店が好きだっていうフィルターがかかってるのもあると思うんですけど、お客さん同士もすぐ仲良くなるんですよね。常連さんたちで卓球部とかカレー部が結成されてたり(笑)。卓球部の人たちなんかは、近所の文京体育館で一汗かいてから店に飲みにきてくれるんです」(岸本)

「これは予想外でしたよ! ロック・バーからバンドが生まれるならまだしも、運動部が出来るとはね(笑)。今度は音楽フェスじゃなく、体育祭をやったほうがいいのかな?」(大久保)

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音楽が中心にあり、音楽好きが多く集まる店ではあるのだが、決して音楽だけにとどまらない広がりを感じるのが、この店の特徴のように思える。訪れる人たちはそれぞれに強いこだわりを持っているのであろうが、そのこだわりに囚われすぎない自由な好奇心も併せ持っているような──そういう人たちが自然と集うのが、MUSIC BAR 道という店なのだろう。そんな酒場が、様々な文化や価値観が雑多に交差する湯島という街にあるのは、どこか必然のようにも感じる。さらに言えば、新宿や渋谷のような繁華街からちょっと離れたロケーションにあって、独特の時間が流れるこの街でなければ、こういった店には育たなかったのかもしれない。

「私は、MUSIC BAR 道がちょっとしたサロン的な交流の場になったら、すごく幸せだなって思うんです。湯島って、すごく猥雑な部分もあれば、少し先にいけば東大があったりする。気取ってないんだけど、土地自体に文化的なものを感じるんですよね。お店自体はギリギリ文京区にあるんですが、すぐ隣は台東区、ちょっといけば千代田区と、東西南北で全然カラーも違う。いろんな人が集う、街の雑多な感じがすごく好きなんです。そんな湯島でバーをやっているという誇りは持っています」(岸本)



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MUSIC BAR 道
東京都文京区湯島3-35-6-3F
TEL:03-3832-3740
月〜土 18:00〜23:30(L.O.)
日・祝 イベント時のみ営業
http://www.miti4.com/


MUSIC BAR 道6周年イベント
5月2日(土)6周年大感謝祭DJナイト
DJs: DJシト、鑑賞池、ネグオ(古道具ネグラ)、sugggai、モリタタダシ、Dr.SAKAI
5月5日(祝)三浦康嗣×蓮沼執太トーク&ライブ
5月9日(土)道の穴 Vol.8 鈴木博文 「後がない。」楽団ライブ
出演:鈴木博文、ゴンドウトモヒコ、今泉仁誠、三浦千明、小林うてな、Ekko、Yu-ki、天生目智
5月16日(土)THE 肯定’s presents〜ジェルソミーナを探して〜
出演:THE 肯定’s=タマ伸也(ポカスカジャン)&星野概念
5月30日(土)安齋肇ドローイングワークショップシリーズ「帰って来た!酒画酒顔」vol.1

詳細はMUSIC BAR 道 ブログページをご確認ください。

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