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TOKYO音楽酒場

【22軒目】渋谷・Los Barbados──料理と酒を入口に、アフリカの音楽や文化へと誘ってくれる酒場

2016.09.05

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いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく連載「TOKYO音楽酒場」。今回は渋谷の外れにあって、美味しいアフリカ料理を提供してくれる隠れ家的な酒場を紹介します。

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井の頭通りを宇田川町交番から左に入ってまっすぐ進んでいくと、渋谷の喧噪は少し遠のき、狭い路地に入る。居酒屋やバーを横目にクネクネ曲がる道をしばらく歩くと、右手に個性的な料理屋が多数テナントに入る雑居ビルが見える。人気のカツ丼専門店や、タイ料理屋、居酒屋、スナックが入居するビルの1階に、今回訪れる〈熱帯音楽酒場 Los Barbados(ロス・バルバドス)〉がある。2010年1月にオープンしたこの店は、アラブ・アフリカ料理の専門店だ。

ドアを開けると、小じんまりとした店内にアフリカの絵画や現地でのライブのチラシなどがびっしりと貼られている。流れるのはコンゴの音楽、リンガラ。渋谷にいるとはにわかに信じられないぐらい、気持ちを一気にアフリカ大陸へ飛ばしてくれる。

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Los Barbadosはオーナー・シェフである上川大助さんと奥様の真弓さんの二人で経営する店。大助さんは、パンクやレゲエを経由して20代前半でアフリカと、アフリカ全土で広く人気を集める〈リンガラ〉の魅力にハマってしまった。80年代には日本人による本格的なルンバ/リンガラ・バンド〈Yoka Choc(ヨカ・ショック)〉のメンバーとして活動。パリをはじめ海外でもライブを行ったという。

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「初めての海外旅行でキンシャサに行っちゃったの(笑)。街自体が面白かったよね。俺はスピリチュアルとか嫌いなんだけど、それでもキンシャサって街には、神秘的なバイブレーションを感じる。だから、アフリカの中でも街の音楽がこれだけ支持されるんじゃないかと思うんだよね。コンゴにも、もともとフォルクローレみたいなものはあったけど、西アフリカのほうからハイライフやパームワインと呼ばれる音楽が入ってきて、そこにラテンも入って……もともとラテンも、アフリカから連れていかれた人たちがはじめたような音楽だから、里帰りにみたいなものだよね。それらが、コンゴという地域で混じりあってポップスが生まれた。文化って、ミクスチャーしてないと面白くないじゃない? 古くからの伝統を大事に守る良さもあるけど、混じりあうことで生まれる面白さもあるわけでさ。コンゴだけで日本の8倍ぐらいの広さがあるんだけど、その中に200以上の民族がいて、サブグループみたいなのも入れたら400ぐらい言語があるって言われてるからね。そういうミックスもあるんだろうね」(大助さん)

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もともと調理師学校に通っていた大助さん、その興味は音楽だけでは飽き足らず、アフリカ料理にも及んだ。1994年から2006年まで市川で〈Vis-A-Vis〉というお店を経営していたが、惜しまれながら一旦クローズ。その後大助さんは、ドライバーや、以前にも本連載で紹介した代々木八幡〈NEWPORT〉の調理スタッフとして働いていたが、周囲からの熱いラブコールに推されて再び自分の店を開くこととなった。

「渋谷〈BAR BOSSA〉の林さんは、前の店にも食べに来てくれていてよく知ってたんだけど、店をたたんでからNEWPORTで働いてた時に、たまたま遊びに来たことがあって。それから会う度に『大助さん、自分の店やってくださいよ!』『不動産屋紹介するから、渋谷で店をやってくれ』って何度も言ってくれたんだよね(笑)。最初は渋谷で店なんてやるつもりはなかったんだけど、3.5坪だったし、渋谷にしては家賃も安かったからね」(大助さん)

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8席しかない小さな店だが、常に賑わっているLos Barbados。ランチタイムも営業しており、来店するうちの7割は女性客だという。

「普通の男の人って舌が保守的っていうか、あまり変わったものを食べたがらないじゃないですか? 味覚的には、女の子のほうが柔軟なのかも」(真弓さん)

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肉や魚を使ったグリルや煮込み料理のメインディッシュから、豊富なビーガン・メニュー、さらには珍しいアフリカのスイーツまで、実に豊富な品数を、大助さんは小さな厨房で手際よく作っていく。スパイシーな〈アフリカン・チキングリル〉を、クスクスやフフ(西アフリカ・中央アフリカで主に食べられる芋で作った餅のような料理)と一緒に食べれば、しばらく動けないぐらいにお腹いっぱいになるだろう。

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ほとんどの客が注文する定番メニューが、〈ヴェジタリアン・マッツァ〉。ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)やベジ・ミートで作ったキッベに、タブーリ(クスクスのサラダ)、フムス、レバノン風のオクラの煮込みなど野菜前菜の盛り合わせ。彩り鮮やかで目にも楽しいだけでなく、ボリュームもバッチリ。食欲を満たしてくれるのはもちろん、酒の肴としても合う味付けが嬉しい。

「マクロビや、ベジタリアン向けの料理って、どこか物足りないって思うこともあるじゃない。そんなの食べたら余計にお腹が空いちゃうって、前にお客さんの女の子が言ってたな(笑)」(大助さん)

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「ウチは、野菜や豆だけでもお腹いっぱいになるように作ってるんです。それはスパイスの使い方だったり、いろいろ考えてね。初めての人なんかは、とりあえず〈ヴェジタリアン・マッツァを頼んで、食べながら次に食べるのを決めたほうがいいかも。アフリカ料理なんて、メニュー見てもどんな料理か想像つかないでしょ? よく『アフリカってベジタリアン多いんですか?』って訊かれることも多いんですけど、そうじゃなくて、経済的にお肉の物価が高いんですよね。普段は野菜や豆が中心で、特別な時にお肉を食べるから、結果としてベジ中心の食生活になってる」(真弓さん)

たとえば通常では肉を使うシチューもベジ・メニューにアレンジするなど、大助さんと真弓さんの柔軟なアイディアで、新たなメニューとして開発。いつしかアフリカ料理の可能性を広げているようだ。

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「料理にこれが正しいとか、どこがオリジナルだっていうものはないよね。料理だって旅してるわけだから。音楽もそうじゃない? スタンダードの曲があって、演奏するミュージシャンによって解釈も違うのと同じで、料理もそうだと思う。誰が作るかによって多少変わったとしても、本物はこうじゃないとっていうのは、それはちょっと違うと思うんだよね。本当の正解なんて無いし、それでいいんじゃないかと思う。俺が作ったらこうなるし、誰かが作ったらまた別のものなる、それが面白いと思うしね。日本人ってどうしても型にはまって考えがちだから、よく『ここの料理は日本人に合わせてるんですか?』とか訊かれるんだけど、合わせてねえよ!ってね(笑)。そんな余計なこと考えないでいいじゃん。実際、現地の味って言ったって、いろいろあんだもん。美味しく作れる人もいれば、どう作っても美味くない人もいるしね」(大助さん)

カウンターの上に並ぶ酒も、チュニジア産のブッハ・オアシス(いちじくのリキュール)や、セドラティン(ハーブのリキュール)など、他ではなかなか味わえないものが揃う。見慣れないラベルの酒瓶を眺めながらグラスを傾け、母なる大陸へ想いを馳せるのもLos Barbadosの楽しみ方のひとつだ。

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最近、真弓さんは知人の料理研究家・口尾麻美さんとともに〈クスクス・スマイル・プロジェクト〉を立ち上げた。Los Barbadosで毎週金曜日にクスクスを提供する〈クスクス・フライデー〉の開催をはじめ、他の店舗も巻き込みながら、クスクスの魅力を知ってもらおうというプロジェクトだ。

「モロッコでは、毎週金曜日に食べるらしいんですよ。それにちなんで、店では〈クスクス・フライデー〉をはじめました。クスクスってもともと手打ちで作るものだから、そんなにしょっちゅうは作れない。で、打った日は家族全員で食べましょうっていう風習があって。良く知らない人を家に呼び入れて一緒に食べたり、ホームレスに配ったり。フランスのレストランでは『金曜日はクスクス無料』っていうところもあるみたい。うちは弱小企業だからタダってのは無理だけど、金曜日にクスクスをお出しして、その売上げの中から何パーセントかをどこかに寄付しようと。こないだは、ネパールの被災地に寄付したけど、その時々で寄付していこうと考えてます」(大助さん)

「北アフリカはムスリムが多いんですけど、ムスリムにも仏教と共通する〈喜捨〉の精神が強いんですね。クスクスを食べて、そういう背景とかも理解してもらって、みんなにシェアしていきましょうっていう考えもあって企画してるんです。とくに若い人や子どもなんかに食べてもらえたら、嬉しいですよね」(真弓さん)

クスクスに限らず、バラエティに富んだ料理、珍しいお酒の数々、リンガラにこだわった音楽、大助さんや真弓さんとの会話……Los Barbadosで提供されるすべてが、他の店ではなかなか味わえないものばかりだ。そして、その味を知ってしまったら、さらにその先にあるものへとますます興味が湧いてくる。

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「そうやって、食事やお酒をきっかけにアフリカに興味を持ってくれると嬉しいよね」(真弓さん)

「カミさんなんて、俺と結婚して27、8年経つけど、ここに来てやっとリンガラが楽しくなったんだって(笑)。だから若いヤツらには、出来るだけ早くから聴いてほしいね(笑)。まあ冗談はともかく、いろんな入口から興味を持ってくれたらいいし、ウチの店がそういうきっかけになればいいなって思う。単に飲食店をやってるだけじゃつまらないですから。Los Barbadosは、モノ言う飲食店です!ってね(笑)」(大助さん)

撮影/相澤心也



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熱帯音楽酒場 Los Barbados
渋谷区宇田川町41-26 パピエビル104
03-3496-7157
12:00~15:00/18:00~23:00 日休
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*本コラムは2015年7月15日に初回公開されました。

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