TAP the SCENE

眠れぬ夜のために〜B.B.キングのアーバン・ブルースを聴きながら

2017.05.03

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夜、眠れない……
誰もが一度は経験したことはあると思う。甘美な眠りをイメージするあまり、焦る気持ちは高ぶり、あるいは余計なことを考えて心配になり、軽く一杯のつもりがつい深酒になってしまう。そうして時計の針だけが進んでいき、気がつけばカーテンの隙間から訪れる朝の陽射しに目が眩む。新しい一日の始まりから疲労と損失のような気分を抱える羽目になる。

アメリカの伝説的な作家スコット・フィッツジェラルドが自身のエッセイ『崩壊』の中でも描いているように、昼間は何でもないことが、深夜になると忘れてきた荷物だって死刑宣告に劣らぬくらい悲劇的な意味を持つ。“魂の暗闇の中では来る日も来る日も時刻はいつも午前3時だ”という、あの有名な一文も綴られた。

映画『眠れぬ夜のために』(INTO THE NIGHT/1985)は、そうした慢性的な不眠症に陥った都会人の夜の出来事を描いた作品だった。

エド(ジェフ・ゴールドブラム)はベッドの中で今夜も眠れずにいる。そのせいか夫婦生活も会社仕事もうまくいっていない。昼下がりに睡魔に襲われた彼は自宅に向かう。しかし寝室では妻が浮気をしていた。

その夜、どうしようもない気持ちに駆られて一人で車を走らせるエド。ハイウェイで向かった先は意味もなく夜のロサンゼルス空港の駐車場。静けさの中で物思いに耽っていた時、突然一人の美女が助けを求めてきた。「このまま早く逃げて。警察には通報しないで」。何かワケがありそうだ。名前はダイアナ(ミシェル・ファイファー)という。

彼女は帰ろうとするエドを幾度となく引き留める。そして行く先々で謎の連中に追われ、死体も転がり、事件に巻き込まれていく。彼の本当の眠れない夜が始まろうとしていた……。

監督は『ブルース・ブラザース』を撮って1980年代の気鋭の監督として評価されていたジョン・ランディス。ダン・エイクロイドはエドの同僚役で出演。また、ミュージシャンの起用や有名監督たちのカメオ出演も当時は話題になり、特にデヴィッド・ボウイやカール・パーキンスが殺し屋やボディガード役で登場しているのも見逃せない。

ランディスは音楽の使い方も抜群で、本作ではB.B.キングに依頼。エドとダイアナが深夜のLAを彷徨うシーンでは、B.B.の都会的な「Into the Night」や「In the Midnight Hour」「My Lucille」が流れる設定だ。夜の映像とアーバン・ブルースのマッチングが素晴らしく、観ている方も何か心地良さを感じてしまう。1980年代のムードもたっぷり描かれているので、この時代が好きな人は酔いしれること必至。

なお、B.B.キングは1949年にデビューしたブルース界のレジェンド。「B.B.以前以後」と言われるほど、チョーキングをはじめとする彼の表現と解釈は革新的だった。南部感覚のダウンホーム・ブルースに対する都市部のアーバン・ブルースの顔役として知られ、ロック界からのリスペクトは絶大。先に挙げた3曲はサントラ盤あるいはB.B.の30枚目のスタジオアルバム『Six Silver Strings』に収録されている。

ちなみに映画の方は、無事に事件が解決。エドは久しぶりに深い眠りにつくことができるのだが、密輸したり金次第で愛人になるような過去を持つダイアナと人生の再出発をするエンディングを想うと、今夜も何だか眠れなくなってきた。

B.B.キングの「Into the Night」のMV。後半で映画のシーンも登場する。


『眠れぬ夜のために』

『眠れぬ夜のために』


*日本公開時のチラシ
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※このコラムは2014年10月に公開されました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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