「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SCENE

エリザベスタウン〜絶望して生きる気力を失いかけた時はこの映画を観よう

2023.10.17

Pocket
LINEで送る

『エリザベスタウン』(ELIZABETHTOWN/2005)


人生には失敗なんてつきものだし、その経験が成長の糧となっていくことは言うまでもないが、もしスケールの違う“大失敗”をやらかしてしまった時、人は一体どうなるのだろう? 生きている実感を失いそうになった時、人はどんな行動に出るのだろう? 大失敗には質の悪い弊害も伴う。愛の喪失、お金の心配、健康の不調、精神の崩壊、そして世間からの孤立……。

映画『エリザベスタウン』(ELIZABETHTOWN/2005)は、そんな大失敗した者を主人公にした一本。失意の中で様々な出来事と向き合いながら、人は決して独りで生きているのではなく、大失敗しても次があることを教えてくれる、力強くも優しい物語だ。この作品と巡りあった人は幸運だと思う。

監督・脚本は『あの頃ペニー・レインと』『ザ・エージェント』などで知られるキャメロン・クロウ。脚本作りに数年も費やすことで有名で、ストーリーや台詞の組み立て方に評価が高い映画作家。本作では自身の父とのエピソードを織り交ぜた。

もともと音楽ジャーナリストだけあって曲の使い方も秀逸。本作にも抜群の選曲がここぞというタイミングで鳴り響く。当時、クロウと夫婦だったナンシー・ウィルソン(ハート)のアコースティック・スコアも心地いい。アメリカ横断のバス旅行に一緒に出かけたことも映画作りにインスピレーションを与えたという。

失敗とは成功しないこと
失敗は誰にでもある
だが“大失敗”は神話的なスケールの災厄を意味する
それは人々の噂の種となり
聞く人に生きる歓びを与える
“自分じゃなくて良かった”と


(以下ストーリー、結末含む)
物語はオレゴン州の大企業で新しいスニーカーの開発デザインのプロジェクトリーダーを担当するドリュー(オーランド・ブルーム)が、会社に大損失を与えるところから始まる。その額は前代未聞の約10億ドル。その大醜態が自分の責任として世間に公表されるのは1週間後。こうして8年間も身を捧げてきた夢が最悪の状態で終えることが決まった。

オフィスに戻ると社長(アレック・ボールドウィン)からも恋人(ジェシカ・ビール)からも“最後の目線”を送られ、解雇されたドリューは自殺を決意。しかしそんな時に限って父の死の知らせが妹(ジュディ・グリア)の電話で判明。つまり、自分が死ぬのは親父の葬儀が終わってからでいい。

父ミッチの故郷であるエリザベスタウンへ飛び立つドリュー。そこはケンタッキー州ルイヴィルから264号線を走り、60Bで降りたところにあるスモールタウン。父の口癖は「人生山あり谷あり」だったことを想いながら飛行機に乗っていると、ちょっと不思議な客室乗務員のクレア(キルスティン・ダンスト)と出逢う。他に乗客もなく暇でやることがないクレアはエリザベスタウンまでの道案内を詳細に伝えた。携帯電話の番号をメモに記して。

故郷に着くと、大失敗のことなど何も知らない人々はドリューをスーパーデザイナーとしてヒーロー扱い。そして父がどれだけ多くの人々に愛され、偉大な存在だったのかを知る。個性の強い南部の親戚の面々、悲しみと直面しながらもユーモアを忘れない母ホリー(スーザン・サランドン)や妹と交流しながら、ドリューは長年の仕事一筋の生活で自分に欠けていたものに気づき始める。「パパは離れ離れになっていた皆の心を一つにした」のだ。

クレアとも親しくなった。朝まで電話で語り合ったり、日の出を見に行ったり。でもクレアには恋人がいるらしい。それでも二人は縁があるのか何度も偶然に再会。遂にベッドを一夜共にする。自分の大失敗を告白するドリューに、クレアは「それだけ?」と微笑む。「私と別れようとするのはやめて。まだ付き合ってもいないのに」。そんな言葉を残してクレアはその場を去って行った。

盛大な葬儀も終わり、現実に戻ってオレゴンに帰ろうとするドリュー。車で40時間以上のロードトリップだ。別れ際、クレアは“特別な地図”をドリューにプレゼントした。それはクレアが選曲した音楽CD付きの手書きマップ。ドリューは父の遺灰を助手席に乗せてアクセルを踏み込んだ。

車を走らせながら、これまでのことを想いながら、思いっきり笑い、大泣きし、あらゆる感情をさらけ出すドリュー。大失敗と死ぬことしか頭になかった自分。そして、その帰路でドリューを待っていた大切な人とは?

南部が舞台とあってカントリーやフォークなどのルーツ・ミュージック、トム・ペティやライアン・アダムスの曲にも痺れるが、映画で特に印象的な曲は三つ。亡き父との再会と帰路のドライブのシーンで流れるエルトン・ジョンの「My Father’s Gun」。従弟のバンドがお別れ会で演奏するレイナード・スキナードの「Freebird」。そして母ホリーが葬儀のステージでダンスを披露するヘンリー・マンシーニの「Moon River」。他の曲では駄目なのだ。

無難なものだけを求める者に本当の大失敗は起こらない。
イギリスの空軍特殊部隊のモットーは“リスクを冒すもの者が勝利する”。
蔦は硬いコンクリートを割って芽を伸ばす。
鮭は血まみれになって流れに逆らい何百マイルも川を上る。
その原動力はもちろんセックス。
だがそれは命でもある。


映画の予告編


「フリーバード」の演奏シーン

「My Father’s Gun」は映画で最も印象的な一曲

『エリザベスタウン』

『エリザベスタウン』






*日本公開時チラシ
144239_3
*このコラムは2015年2月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
https://www.wildflowers.jp/profile/
http://www.tapthepop.net/author/nakano
■仕事の依頼・相談、取材・出演に関するお問い合わせ
https://www.wildflowers.jp/contact/

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SCENE]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ