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コーヒー&シガレッツ〜同じテーブルで対話するイギー・ポップとトム・ウェイツの奇跡

2017.04.04

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気楽に作りたかった。僕が出てほしいと思った人たちにまずは声をかけてみる。承諾してくれたら脚本を書いて撮影するって感じだね。役者の組み合わせを考えるのがとにかく楽しいんだ。イギー・ポップとトム・ウェイツ、ビル・マーレイにはGZAとRZAとか。


ジム・ジャームッシュの映画作りは、一貫してキャスティングから始めることは有名だ。完成した脚本があってそれから打診するのが一般的な進め方だが、彼はそうしない。その独特とも言える、役者が持つイメージや雰囲気を活かした映画作りは、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』とジョン・ルーリー、『ダウン・バイ・ロー』とロベルト・ベニーニあるいはトム・ウェイツ、『ミステリー・トレイン』とジョー・ストラマー、『デッドマン』とジョニー・デップなどに反映され、妙なクセがありつつも愛すべき作品を次々と生み出してきた。

『コーヒー&シガレッツ』(Coffee and Cigarettes/2003)は、そう言った意味で最もジャームッシュ流儀を貫いた作品かもしれない。11本のエピソードが並べられたこの映画には、ハリウッド俳優、ミュージシャン、ラッパー、コメディアン、謎の美女まで様々な役者が登場する。

しかもほとんどは本人役で、演じているのかそのままなのかも分からない点がまた面白い。コーヒーと煙草を口にしながら会話するだけのシンプルな構成。ドラマチックさとは無縁な日常の場面を描いただけの11本。しかし、観終わった後に訪れるこの至福感は一体何なのだろう。

もともとは1986年に、人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』から1本の短編を依頼されたのが始まりだった。それが最初のエピソード「変な出会い」で、ロベルト・ベニーニとスティーヴン・ライトが登場。歯医者に行くのが面倒臭い男が、暇な男に頼んで代わりに行ってもらうというオチ。

2本目の「双子」は1989年撮影。スパイク・リーの弟ジョイと妹サンキーがどうでもいい話をしているところに、スティーヴ・ブシェミが絡んできてエルヴィスの伝説話を持ち出すが、黒人の二人にはさらにどうでもいい話。

1992年撮影の3本目「カリフォルニアのどこかで」は、イギー・ポップとトム・ウェイツというロックファンにはたまらない二人の曲者が同じテーブルで対話する。店のジュークボックスに「お前の曲は入ってない」といきなりかましてくるイギーだが、後で一人になったトムがそれを確かめていると「あいつの曲もねえじゃねえか」と呟く。店で流れているのがずっとハワイアン音楽というのも絶妙で、このエピソードは1993年のカンヌ映画祭短編映画部門のグランプリを獲得した。

登場人物と場所を考えてBGMを選曲するのも楽しみの一つなんだ。イギーとトムの場面にはなぜかハワイアンが合ったんだよ。


そのすぐ後に撮られたのが5本目の「ルネ」と6本目の「問題なし」。前者は傑作で、プロフィールも何もない謎の美女ルネ・フレンチが店で一人でくつろいでいると、店員のE.J.ロドリゲスがコーヒーを頻繁に注ぎに来てナンパしようとする。ルネはコーヒーの色や温度に拘っているのでその度にカップを手で覆う。読んでいるのはその美貌からしてファッション雑誌かと思いきや、実は銃マニア向けの通販雑誌だ。

なお、4本目の「それは命取り」と7本目以降の「いとこ同士」「ジャック、メグにテスラコイルを見せる」「いとこ同士?」「幻覚」「シャンパン」は2003年に撮影。

中でも7本目の「いとこ同士」は、あの美人女優ケイト・ブランシェットが一人二役(映画スターで品のある本人と無名で柄の悪い親戚という対照的な役)をこなす。舞台は高級ホテルのラウンジなのでもちろん禁煙だが、スターと一緒にいれば何をやっても許されることが分かるオチ。ジャームッシュ映画とは距離があるメジャーなキャスティングが新鮮。

8本目の「ジャック、メグにテスラコイルを見せる」は、その名の通りホワイト・ストライプスの二人が登場。バックにはストゥージズが流れている。テスラコイルというマニアックな装置を購入したジャックが自慢げに店で実験するというハチャメチャな行動に出るが、実は全く興味なさそうにしていたメグの方がジャックよりもテスラコイルに詳しい。

10本目の「幻覚」では、ウータン・クランのGZAとRZAが登場。音楽と医学の関係について話す二人(イギーとトムのエピソードでも触れられる)は健康のために紅茶を飲んでいるが、そこになぜか店のウェイターとして働いている映画スターのビル・マーレイがコーヒーを注ぎに絡んでくる。

ビルに依頼した時、彼は内容のことをまったく聞かずに、どれくらいの時間が掛かるだけを気にしていた。僕が1日だって言ったら、彼は半日にしてくれないかって(笑)。で、撮影前夜に時間と場所だけを教えてくれって言うから、半信半疑で留守電に残したら、次の日に本当に来たからビックリしたよ。


最後のエピソードは「シャンパン」で、名優テイラー・ミードとビル・ライスの老コンビの詩的で味わい深い演技が感動的。ビルの清掃員として働き、薄暗い地下室で紙コップに注がれたコーヒーを休憩時間に傾ける二人。煙草の煙がゆっくりと舞う。

「このコーヒーをシャンパンと思おうじゃないか」
「何でだよ?」
「人生を祝うんだ」


“悲くして美しい世界”で、映画『コーヒー&シガレッツ』は締めくくられる。

イギー・ポップとトム・ウェイツのエピソード


ケイト・ブランシェットが一人二役を演じるエピソード

『コーヒー&シガレッツ』

『コーヒー&シガレッツ』


*日本公開時チラシ
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評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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