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Dearダニー 君へのうた〜43年遅れで届いたジョン・レノンからの手紙

2016.07.20

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1980年12月8日、ジョン・レノンが亡くなった。享年40。前人未到の「40代のロックスター」として精力的な活動が注目された矢先の悲劇は、世界中に衝撃が走った。これを機にミュージシャンたちの間では40歳を過ぎてもロックをやっていこうとする強い決意が生まれたようにも思う。「30歳以上を信じるな」とさえ言われていた若者文化と反体制の象徴だったロックは、80年代、90年代、ゼロ年代と時代を重ねていくと同時に、40代、50代、60代の成熟したロックミュージシャンを育んでいく。

ローリング・ストーンズもポール・マッカートニーも、ボブ・ディランもブライアン・ウィルソンも、エリック・クラプトンもデヴィッド・ボウイも、ニール・ヤングもブルース・スプリングスティーンも、イギー・ポップもルー・リードも、ロッド・スチュワートもエルトン・ジョンも、誰もがその領域に入っていった。そして2010年代の現在、伝説のミュージシャンたちはいよいよ70代に突入した。

『Dearダニ― 君へのうた』(Danny Collins/2015)の主人公ダニー・コリンズ(アル・パチーノ)も彼らの仲間であり、成熟したロックスターの一人のようだ。いや、実はその退廃した生活は成熟とは程遠く、若いガールフレンドとドラッグと酒、豪邸や自家用ジェット、他人の手による往年のヒット曲ばかり歌うだけのツアーで、ダニーの心は底知れぬ虚しさに覆われている。変わったことと言えば、客席のファンが老けたことくらい。鏡に映る自分と同じだ。

盛大なバースデー・パーティが終わる頃、マネージャーからプレゼントを渡されるダニー。それは我がヒーロー、ジョン・レノンからの手紙だった。ダニーがデビューした43年前の1971年、雑誌のインタビューで成功することへの不安を語った記事を見て、ジョンが何の面識もないダニーのために励ましの言葉を書いて送ってくれたのだ。しかし、手紙はダニーの元に届かず、長年コレクターの手に渡ったままだった。

ダニー・コリンズくんへ

ヨーコと記事を読んだよ。
金持ちで有名になることで、君の音楽は堕落しない。
堕落させるのは君次第。君はどう考える?
音楽と自分自身に忠実であれ。
電話番号を書いておく。
直接話をしよう。力になるよ。

ジョンより


これはイギリスのフォーク・ミュージシャンのスティーヴ・ティルストンが経験した実話だそうだ。デビューして間もない1971年、マイナーな雑誌に「富と名声を手に入れたら、作る歌に影響が出ると思う?」と質問されて不安を語った記事が掲載された。それから34年後の2005年(映画では43年後の設定)。活動を続けるティルストンのもとに、突然アメリカの収集家から連絡が入る。ジョン・レノンが書いたティルストン宛の手紙を入手して、それが本物であるかどうか証明してほしいという依頼だった。

脚本家のダン・フォーゲルマンはこのエピソードを知って、こう思った。もしティルストンがこの手紙を受け取り、その後にジョンに本当に電話していたら、彼の人生はどう変わっていただろう? そんな疑問から本作は生まれた。監督も兼任したフォーゲルマンは、老いたロックスター役にはアル・パチーノ以外に考えられなかったという。

この映画は、人生を誰かと過ごすことがいかに大切かを教えてくれる。相手が家族であろうとなかろうとね。私が感動したのはそこさ。今でも感動しているよ。他の人たちにも同じように作用するといいね。皆と語り合いたくなる映画だよ。人生や人間関係について、大切なことを語りかけてくれるんだ。


アル・パチーノは「自分の出た映画を観て初めて泣いた」ことを監督に伝えた。アネット・ベニング、クリストファー・プラマー、ボビー・カナべイルらの演技もあって、当初ミニシアターから始まった『Dearダニ― 君へのうた』は実に味わい深いフィルムとなり、拡大公開へと遂げた。

物語は、ジョンの言葉に目を開かされて人生を変えると決めたダニーが、顔も見たことのない息子に会いに行く姿を追う。また、30年ぶりの自作の新曲に挑むシーンがあるが、これはプロデューサーのドン・ウォズと、オルタナ・カントリーのスターであるライアン・アダムスの共作曲。アル・パチーノの歌唱が素晴らしい。なお、コンサートのシーンはあのシカゴのステージの合間を借りて撮影した。

そして何よりも、レノン財団から異例の許可がおりて、全編にジョンの歌声が流れるていることに勇気づけられる。「ワーキング・クラス・ヒーロー」「ビューティフル・ボーイ」「ノーバディ・トールド・ミー」「真夜中を突っ走れ」「夢の夢」「コールド・ターキー」「ラヴ」「インスタント・カーマ」……この映画はジョンへの手紙そのものだ。

予告編


『Dearダニー 君へのうた』

『Dearダニー 君へのうた』


*日本公開時チラシ
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*参考・引用/『Dearダニ― 君へのうた』オフィシャルサイト

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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