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ナイト・オン・ザ・プラネット〜トム・ウェイツの歌声が心地いいジム・ジャームッシュ作品

2016.11.23

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ジム・ジャームッシュ監督の長編第5作となった『ナイト・オン・ザ・プラネット』(NIGHT ON EARTH/1992)のエンドクレジットには、トム・ウェイツの「Good Old World (Waltz) 」という曲が流れてくる。

幼い頃、月は真珠に似て 太陽は黄金のように輝いていた
大人になると 吹く風は冷たく 山々は上と下がひっくり返った
今はその世に 長いお別れを告げる時
懐かしさが 俺を引き止める
もう一度チャンスを賭けたい 潮の流れに
古き良き世界に戻って


観ていて心地のいい映画だった。決して何か凄いことが起こるわけでもない。何かストーリーがあるかと言えばないだろう。人によっては「こんな映画は退屈だ」「映画じゃないよ」と言うかもしれない。でもそんなことを言う人が夢中になる映画はたぶん観たいとも思わない。真夜中に静かに一人で向き合いたい作品だ。

地球というこの星にある5つの都市の同じ夜。言葉も人種も違う5人のタクシー運転手と乗客の移動を描く。短編小説のような映画だが、オムニバスではなく、あくまでも5つの章で1本として成立する映画。

面白い仕事だと思うんだ。良い運転手になるためらはその街をよく知っていないといけない。あんな小さな空間に何時間もいるんだ。その中でいろんな人と会うが、登場人物のセリフにもあるように「15年の間に二度同じ人を乗せたことはない」。そこが面白い。きっともう二度と会わないような人と一緒にある程度の時間いるから、会話はどんなものにもなり得る。

各国の現地スタッフに協力してもらいながら、ジャームッシュは自分を含めたった6人のスタッフで各地を周って撮影した。

脚本を書いていた時から、それぞれの話のエモーショナルなリズムには配慮していた。LAは軽快に、NYはおかしく、パリは詩的に、ローマは凶暴に、ヘルシンキはブラックに。

──ロサンゼルスの陽が沈む。夜7時過ぎ。
空港に向かってタクシーを走らせるコーキー(ウィノナ・ライダー)が次に拾った客は、映画のキャスティングエージェントとしてバリバリ働くキャリアウーマンのヴィクトリア(ジーナ・ローランズ)。行き先はビバリーヒルズだ。

ガムをくちゃくちゃ噛みながらヘビースモーカーのコーキーは、口も悪いし、化粧もしていない。それなのにヴィクトリアは話しているうちに、彼女こそが探し求めていた新人女優像だとひらめく。ヴィクトリアは目を輝かせながら「映画スター」にならないかと持ちかける。

ビバリーヒルズに着いて荷を降ろしてからの二人の会話がまたいい。

ヴィクトリア「あなたにぴったりの役があるの。物凄くいい役よ。映画スターになれるのよ」
コーキー「今はちょっとまずいかな。せっかくこの仕事にありついて。失いたくないのよね」
ヴィクトリア「ゆっくり考えて。私は本気なのよ。話の内容は分かるわよね?」
コーキー「分かるけど、私はタクシーの運転手だし。いずれは整備工になるつもりなの」
ヴィクトリア「無理にとは言わないけど、ハッキリさせたいから言うけど、あなたは映画スターになりたくないのね?」
コーキー「イヤ」
ヴィクトリア「整備工は後でなればいいじゃない。映画スターになれる話なのよ!!」

そしてコーキーは淡々と言う。

「映画を観るのは好きだし、マジな話だってことも分かってる。でも私の生きる道じゃないな。映画スターに憧れる子は多いと思うけど、私は人生プランを立てていて、うまく進んでる最中だしね」

映画はその後、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキへと風景が流れていく。そしてヘルシンキで陽が昇るのだ。

予告編


『ナイト・オン・ザ・プラネット』

『ナイト・オン・ザ・プラネット』


*日本公開時チラシ
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評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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