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オアシス:スーパーソニック〜1996年8月10日に世界の頂点に立ったギャラガー兄弟

2023.08.09

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『オアシス:スーパーソニック』(Oasis:Supersonic/2016)


日本でも公開された映画『オアシス:スーパーソニック』(Oasis:Supersonic/2016)は、2009年に解散した史上最高の英国バンドの一つ、オアシスの真の姿に追った良質なロック・ドキュメンタリー。製作総指揮はギャラガー兄弟。

90年代前半。アメリカではそれまでの商業音楽の象徴だったヘヴィ・メタルやベテラン勢の計算され尽くしたサウンドを否定するように、ニルヴァーナやパール・ジャムらのグランジ勢を筆頭とする荒々しいオルタナティヴ・ロックが隆盛。グリーン・デイらのポップ・パンクも脚光を浴びる。

こうしてロックが着実に復権されていく中、イギリスからの回答がオアシスだったのだ。1994年4月5日、ニルヴァーナのカート・コバーンが自殺してから6日後の11日。オアシスは「Supersonic」でデビューした。

中産階級代表のブラーと労働者階級代表のオアシス。これらは「ブリット・ポップ」としてUKの音楽シーンを席巻。二つのバンドのライバル対決も抜群の宣伝効果となり、95〜97年に狂乱期を迎える。英国産のカルチャーが爆発して、日本のファッションやストリートシーンにも大きな影響を与えた。当時の首相ブレアが掲げた“クール・ブリタニア”やブリット・ポップの中心にはいたのは、間違いなくオアシスだった。

最も有名なロックンロール・バンドになった彼らはその後、90年代の残りとゼロ年代を駆け抜けて解散。原因はノエルとリアムのギャラガー兄弟の度重なる確執だったのは言うまでもないが、その栄光の始まりもこの二人なくしてあり得なかった。

アイルランド人の両親のもと、マンチェスターで生まれた次男ノエル、そして5歳年下の三男リアム。アル中の父親の家庭内暴力が原因で母親に育てられた幼少時代。ノエルはやがて音楽とギターに夢中になり、リアムは喧嘩に明け暮れるようになる。そんなある日、ハンマーで殴られたことをきっかけにリアムも音楽に目覚めた。

すでに同郷の先輩バンド、インスパイラル・カーペッツのローディをしていたノエルがリアムのいるバンドに加入して1991年にオアシスが誕生。そして失業手当を頼りに地味に練習やライブを繰り返した結果、93年にクリエイションとレコード契約。必死で働いていた母親に早く楽をさせてやりたいと思っていた兄弟は、この日のことを今も忘れていない。

「Supersonic」「Shakermaker」「Live Forever」とシングルをリリースしていくにつれ人気は急上昇。94年8月のデビュー作『Definitely Maybe』は、英国音楽史上最速で売れたナンバー1アルバムとなった。9月には初来日公演も行い、感度の高い女の子たちの歓声を集めた。12月、有名な「Whatever」を発表。

翌年10月には最高傑作『(What’s the Story) Morning Glory?』で遂に世界的にブレイク。このセカンド作は2000万枚以上売れまくり、シングルカットの「Some Might Say」「Roll with It」「Wonderwall」「Don’t Look Back in Anger」……そのどれもが大ヒットした。

バンドのソングライティングを担う兄ノエル。そして独特のスタイルでマイクに向かう弟リアム。「人に向かって歌うことで怒りを発散していた」リアムはトラブルメイカーのロックンロール・スターとなり、乱闘事件をはじめタブロイド紙のネタに事欠かない。一方でステージでは黙々とギターを弾くノエルは、ツアーで失踪したり、数々の問題発言(「ドラッグやるのは朝の紅茶みたいなもんさ」など)を通じてこちらも新聞沙汰に。

オアシスにはトラブルが絶えなかったが、そのたびに何事もなく戻って来るのが凄かった。普通のバンドならとっくに崩壊してしまう。仲が良いのか悪いのか分からないギャラガー兄弟の間に漂う緊張と口論も、バンドをタフに成長させることに一役買っていた。反体制を貫いたオアシスは権力やメディアに叩かれていくが、そんなことではビクともしなかった。

映画は1996年8月10〜11日に開催されたネブワース公演で締めくくられる。260万人もの申し込みがあり、25万人の観衆を集めたこのステージは、オアシスの頂点だった。公営住宅から生まれたバンドがわずか数年で切り拓いた道程。しかし、この日を境にオアシスは“ブランド”や“ビジネス”に覆われて、昔の仲間たちも企業や資本に切り捨てられていく。

ノエルが「終わりの始まりだった」と言うように、彼の視線の先にはオアシスの解散がすでに見えていたのかもしれない。世の中にネットカルチャーが登場するのもこの頃。世界は凄まじいスピードで変わろうとしていた。バンドの歴史的トピックや更に大きな成功はこの先もあるはずなのに、ここで何のためらいもなくエンディングにしてしまう姿勢に、改めてオアシスのカッコ良さと美学を感じることができる122分。

弟リアムは、デビューからの数年間をこんな言葉で振り返った。

悲しいことやムカつくこともいろいろあったけど、
ほとんどがハッピーで楽しい思い出だよ。


そして兄ノエル。

俺たちは音楽で火をつけた。ファンは俺たちの船に乗った。俺たちとみんなの間には何かが通じ、磁石のように引きつけ合った。愛もヴァイブも情熱も、怒りも喜びもみんなからもらった。それがオアシスだ。


踊りたければ踊ってくれ
兄弟よ、チャンスを掴むんだ
人は望んだ道しか行かないものさ
言えるのはただ一つだけ

先はどうなるか分からない
兄弟よ、身を任せてくれ
どれだけ生きても人生は分からない
俺たちはマスタープランにしか過ぎないんだから
──「The Masterplan」より

予告編


『オアシス:スーパーソニック』

『オアシス:スーパーソニック』






*日本公開時チラシ

*参考・引用/映画『オアシス:スーパーソニック』
*このコラムは2017年4月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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