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ダイナー〜選曲が心地いいミッキー・ローク出演の1959年の青春グラフィティ

2024.03.07

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『ダイナー』(Diner/1982)


これまで本コーナー「TAP the SCENE」ではたくさんの青春映画を取り上げてきた。子供の頃に親に連れられて観たファンタジーアニメや家族向け映画とは違い、低予算でリアルな青春映画は初めて自分の小遣いで映画館に出向いた“体験”であり、スクリーンに映っているのは等身大の“人生”でもあった。

大人になってもこのジャンルに思い入れがある人は少なくない。なぜなら、人には多感な時期(15〜24歳くらい)で接したカルチャー(映画や音楽や小説など)の影響が、他の時期に比べて強く残るからだ。それに思春期の中高生の“入口”としての青春映画には名作が多かった。

青春映画を見なおしてきた中でふと思ったことがある。それは、このジャンルは「時」と「場所」がとても重要な役割を果たしているということ。逆に言えば、それらを特定せずに秀逸な物語は描けないのだ。それは1950年代なのか、70年代なのか、それとも90年代なのか。それは西海岸なのか、東海岸なのか、それとも名もなきスモールタウンなのか。「時」と「場所」の設定で、すでにドラマは静かに始まっている。

50〜80年代のスモールタウンや田舎町が舞台の『ラストショー』『アウトサイダー』『フットルース』。60〜80年代の西海岸が舞台の『ビッグ・ウェンズデー』『ロード・オブ・ドッグタウン』『レス・ザン・ゼロ』。60年代のNYを舞台にした『ワンダラーズ』や『プリティ・イン・ピンク』などジョン・ヒューズによる80年代学園作品も忘れられない。

90年代のアメリカには『リアリティ・バイツ』、イギリスには『トレインスポッティング』という傑作があった。また、映画作りという観点では、リアルタイムで製作されたものと、監督や脚本家などの追憶で後年になって成立している2種類があり、とにかく話は尽きない。

今回、新たにリストに加えるのは『ダイナー』(Diner)。1982年の公開だが、物語は設定は1959年のボルティモア。監督・脚本のバリー・レビンソンの個人的体験が映画になった。80年代にやたらと50〜60年代が舞台の青春映画が多いのは、作り手の青春期がその時代にあたるから。今や大スターの若かりし頃の姿が見れたりして、ちょっとした発見もあるのも特徴。『ダイナー』にはミッキー・ロークやケヴィン・ベーコンやエレン・バーキンが出演している。

『ダイナー』は複数の登場人物の物語が同時並行して綴られる、「人生いろいろあるよね」的な“グラフィティ”ものでもある。この種の手法の礎を築いたのは言うまでもなく『アメリカン・グラフィティ』。必ず“自分”に似ている人物がいて、感情移入できるのがいい。

さらに70〜80年代に青春期を送った人なら大好きなアメリカン・ダイナー(簡易食堂)が溜まり場として描かれる。コーヒー、ビール、ハンバーガー、フレンチフライといったメニュー。テーブルの上にはケチャップ、マスタード、砂糖が入ったガラス容器。アメリカでは60年代にファストフード・チェーンに取って代わられるまで、若者から中年、老人など様々な世代が集っていた。そんな場だからこそ、自分の思い通りに行かない人生や社会の暗黙のルールを学ぶことができた。

童貞のまま5年付き合った彼女との結婚を控えたフットボール狂いのエディ。唯一の既婚者でレコードマニアのシュレビー。大学院生のビリー。そしてプレイボーイでギャンブルで借金のあるブギー(ミッキー・ローク)と、トラブルメーカーでクイズ番組好きなフェンウィック(ケヴィン・ベーコン)。物語は5人の大人になりきれない若者たちの姿を会話とエピソードでつないでいく。

そんな起承転結のない構成ゆえか、この映画は当初失敗作とみなされ、お偉方からオクラ入りにされる寸前だったという。しかし、評論家たちが絶賛。仕方なく公開に踏み切ったとか。時間をかけてゆっくりと染み込む青春映画の一つとして、『ダイナー』は今ではカルトムービーになった。

激動の60年代になることなど夢にも思わずに、いつまでも少年であることに(大人になることを恐れている)登場人物たちの言動に、今の日本の30〜40代の男たちの姿がシンクロしているようにも思えた。

時代描写に光るシーンが多く、電気店でテレビを買いに来た客が「この映画はカラーのはずだろ?」とイチャモンをつけると、店員が「テレビが白黒なんです」と返すところは印象的。

全編に渡って流れている音楽も心地よく、ロックンロールからR&B、ブルーズ、ポップスまで1959年らしい選曲。音楽オタクのシュレビーが自宅のレコード棚の前で「チャーリー・パーカーをロックのコーナーに戻した」妻のベス(エレン・バーキン)と喧嘩するシーンは思わず笑ってしまう。女の子にとってジャンル分けなどどうでもいいこと。ただいい音楽が聴ければそれでいいのだから。

(主なサウンドトラック・アーティスト)
カール・パーキンス、チャック・ベリー、エディ・コクラン、エルヴィス・プレスリー、ファッツ・ドミノ、ハウリン・ウルフ、ジェリー・リー・ルイス、ジミー・リード、ディオン&ザ・ベルモンツ、フランク・シナトラ、ボビー・ダーリンなど

予告編

『ダイナー』

『ダイナー』


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*日本公開時チラシ

*参考/『ダイナー』DVD特典映像、パンフレット
*このコラムは2017年6月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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