TAP the SCENE

ハイ・フィデリティ〜音楽を聴くことの素晴らしさや興奮をもう一度取り戻したい人たちへ

2017.09.06

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音楽を聴くこととは、一体何なのだろう? 「毎日の生活のテンションを上げたい」「楽しみが欲しい」「勇気や力をもらいたい」「救われた気持ちになる」「疲れが癒される」「大切な人と共感したい」「みんなで一緒に歌いたい」「あの頃の自分が蘇る」「仕事や企画のアイデアになる」……それぞれの想いが音楽を必要としている。

特に15歳〜25歳くらいまでは、音楽や映画や小説や漫画などの文化に対する欲求は高く、その時代の「若者」として世の中の流行や情報はごく自然に吸収消化できたはずだ。ところが社会に出たり、結婚して家庭を持ったりすると、仕事に追われる日々や世の中のしがらみなどで、自分の時間が学生時代や独身時代よりも減ってしまい、経済的な理由からも趣味に使う金額が限られたり、仕事上の付き合いで他の趣味への対応などが起こってしまう。そして気づいた時にはもう「若者」ではなくなっている。
 
結果、あれほどのめり込んだはずの音楽体験にいつの間にか疎くなり、アンテナを張っていないので最新の音楽シーンの動向も分かるはずがなく、そのまま音楽に対する興味さえも薄れ、ただTVやCMやネット動画から流れるようなもの=最新の音楽と勘違いしてフォローするのが精一杯(時々、昔好きだった当時の洋楽を聴く程度)。今の若者の前では気まぐれに「もう年だから」などと苦笑する。

さらにテクノロジーや販売チャネルの変化が究極に到達した現在、ダウンロード/ストリーミングサービスやネット通販の普及で、あれほど足繁く通っていたCD/レコードショップにもすっかり出向かなくなってしまった。そして、街にはもともと共通文化としてのロックや洋楽に余り思い入れがない若者が闊歩している。このままではいずれ誰もロック/洋楽を聴かなくなる(=売れなくなる)し、アーティスト側も市場としての日本を軽視してツアーにも組み込まれなくなっていく。

TAP the POPはこの危機的状況を救うため、大人たちとその子供たちにロックや洋楽の魅力や興奮をもう一度きちんと伝えていくためのプロジェクトとして始まった。ガンダムで育った世代が今や父親となり、ガンダムで遊ぶ子供たちから「パパ、かっこいい」と言われるのと同様、今やロックや洋楽も「オヤジ、すげえな」と言われるための、その一つの手段なのかもしれない。

ニック・ホーンビィの小説を原作とした映画『ハイ・フィデリティ』(High Fidelity/2000)は、そんな世代に捧げる物語だった。シカゴで中古レコード店「チャンピオンシップ・ヴァイナル」を経営する音楽/レコードオタクのロブ(ジョン・キューザック)。30代で独身の彼は、同棲中の恋人に出て行かれ、どこか欠陥があるのではないか。何が問題だったのかを自問自答する。

惨めだからポップ・ミュージックを聴くのか、それともポップ・ミュージックを聴くから惨めになるのか。過去の自分の失恋トップ5をランキングして、昔フラれた彼女を再訪していくロブ。そんな時の中で、彼は自由すぎた生き方を反省し、もっと地に足をついた生き方を決意する。すべては愛する彼女を取り戻すためだ。もっと自覚が必要な男の物語として、『ハイ・フィデリティ』には一貫したメッセージが息づいている。

映画に流れるのは様々な時代のロック。ケミカル・ブラザーズ、ベル・アンド・セバスチャン、ジョーン・ジェット、カトリーナ&ザ・ウェイブス、スティッフ・リトル・フィンガーズ、クイーン、エルトン・ジョン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド……そしてカメオ出演したのはブルース・スプリングスティーン。ギターを弾きながら悩むロブにアドバイスをする。

電話して気持ちを聞けよ。
誰よりも君が楽になるぜ。
人生をやり直せたら素晴らしいだろ。
トップ5に“あばよ”と言って、旅を進めるんだ。


レコード店の風景も楽しい。そこが特別な場所だったことを思い出す。曲者の店員がいたり(ロブがまともに見える)、スティーヴィー・ワンダーの「I Just Called to Say I Love You」を娘のために買いに来る時代錯誤のオヤジ客もいる。店員の「そんなもの置いてねえよ! それに娘さんがそんな曲を好きなわけないだろ!!」が妙に笑えるのだ。

音楽で自伝を綴る。人生のサウンドトラックを作る。たまにはそんな時間とゆっくり向かい合いたい。

予告編


ブルース・スプリングスティーン出演シーン

『ハイ・フィデリティ』

『ハイ・フィデリティ』


*日本公開時チラシ

*参考/DVD『ハイ・フィデリティ』特典映像

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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