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ボーイズン・ザ・フッド〜子供のまま大人でいることに慣れてしまった人たちへ捧げる名作

2017.09.21

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アメリカの黒人の男は20人に1人が殺されて死ぬ。その大半が同じ黒人によって殺されるのだ……


映画『ボーイズン・ザ・フッド』(Boyz n the Hood/1991)の冒頭では、こんな言葉がスクリーンに綴られる。ちょっと衝撃的な事実だ。

90年代初頭、ブラック・ミュージックやギャングスタ・ラップの隆盛とシンクロするかのように、ブラック・ムービーが盛んに製作されるようになった。スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)をはじめ、『ニュー・ジャック・シティ』(1991)や本作、そして『ジュース』(1992)などが知られている。

『ボーイズン・ザ・フッド』は、23歳のジョン・シングルトンによる監督デビュー作。自身の体験に基づいて脚本を執筆したという彼は、「黒人から奪われた尊厳を取り戻すためにこの映画を作った」という。スパイクが白人との対立を描いたのに対して、ジョンは黒人社会内部を赤裸々に描き出した。

少年が大人へと成長する過程を、そして男の本当の生き方とはどういうことなのかを描きたかった。伝えたかったのは、アフロ・アメリカンの男たちは、子育てに絶対的な責任があるということ。特に男の子の育て方。父親が子供に与える影響がいかに強いかということ。

子供のまま大人でいることに慣れてしまった現在の日本も、決して他人事ではない。これからの時代のベクトルは、大人のあり方次第なのだ。

ブラザー同士でなぜ殺し合わなければならないのか。なぜ憎しみ合わなければならないのか。『ボーイズン・ザ・フッド』は非暴力を訴えた物語にも関わらず、1991年7月12日の全米公開後、劇場で発砲事件が起こってしまう。それくらいこの映画が放つリアリティ、現場の空気感は凄かったということだろう。

「ボーイズン・ザ・フッド(隣同士の少年たち)」というタイトルは、80年代後半にロサンゼルスのゲットーでの暴力沙汰やストリートでの警察との衝突を訴えて、社会現象化したギャングスタ・ラップ・グループ、NWAのファーストアルバムの曲から取られた。そのメンバーであるアイス・キューブは本作に出演。彼は少年時代にスクールバスの中で、カラーギャングのブラッズの連中から説教されたことがある。

物語は、LAの犯罪多発地帯サウス・セントラル地区が舞台。住宅街であるにも関わらず、日常的に絶え間なく暴力が起こる荒廃エリア。黒人グループ同士の対立、空き地に死体、子育てを放棄してドラッグに溺れる母親、強盗や銃声は当たり前。

そんな過酷な環境で育った17歳のトレ(キューバ・グッディングJr)だが、グレないでいられるのは厳格な父親の教えがあるからだ。忍耐強く抑制の効いた思考で、洋服屋で働きながら真面目に生きようとする彼には、将来フットボール選手を目指すリッキー(モーリス・チェスナット)という親友や大学進学を目指す恋人がいる。

リッキーの兄ダウボーイ(アイス・キューブ)は、ストリート・ギャングの仲間に入って刑務所を行き来し、弟とは正反対のタイプ。それでも幼馴染みのトレとは仲が良い。ある夜、トレは横暴な警察から尋問を受ける。それは屈辱以外の何物でもなかった。「こんな街は嫌だ。どこかへ逃げ出したい」と思わず涙があふれ出た。

一方、ダウボーイと対立するギャングが忍び寄る。巻き込まれたリッキーが銃弾に倒れた時、トレは激しい怒りと悲しみに覆われる。父親の説得を振り切り、ダウボーイたちと復讐に出向くトレだったが……。

暴力やギャング犯罪の犠牲となる者。自由と新たな世界のパスポートを得る者。『ボーイズン・ザ・フッド』で描かれる友情や苦悩、愛や夢、家族の絆や人間的成長は、観る者の心を熱くする。ずばり名作だ。

なお、アイス・キューブらが参加したサウンドトラックもヒットしたが、映画を見れば感じることがある。それは、真夜中に黒人居住区を飛び回る照明灯を装備した警察ヘリの音。その不気味な騒音こそが、本当のサウンドトラックであるかのように聴こえてならない。

予告編


『ボーイズン・ザ・フッド』

『ボーイズン・ザ・フッド』


*日本公開時チラシ

*参考/『ボーイズン・ザ・フッド』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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