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カラーパープル〜時代を超えた名作となったウーピー・ゴールドバーグのデビュー作

2024.02.15

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『カラーパープル』(The Color Purple/1985)


『カラーパープル』(The Color Purple/1985)は、黒人姉妹の別れと再会を描いた人間ドラマだった。差別を描こうとしたものではない。これはある時代を描きながらも時代を超えた「クラシック・ストーリー」とでも呼ぶべき名作だ。

舞台となるのは1906〜1937年の南部ジョージア。ブルーズ音楽の世界で例えるなら、カントリー・ブルーズやクラシック・ブルーズに始まり、ジャグバンド、シティ・ブルーズ、ブギウギ・ピアノ、そして伝説のロバート・ジョンソンが録音を残したあたりまで。映画でも掘建小屋のジューク・ジョイントでブルーズを歌ったり演奏したりするシーンが出てくる。神のゴスペルに対する悪魔のブルーズといった対比も描かれていた。

原作はアリス・ウォーカーが1983年に発表した同名小説。彼女にとって3作目の長編小説で、両親や祖父母の人生を参考に、虐待や抑圧や苦しみを味わいながらも、決して自由と誇りを失わない生き方をテーマに綴り続けた。宗教的な支配から解放され、神は自分自身の中にいるということを伝えたかったという。アリスは執筆のために静かな田舎に移り住み、自然の中には紫色が意外に多いことに気づき、そのままタイトルに使用した。小説はピューリッツァー賞フィクション部門を受賞。

映画では手紙という存在が大きな転換となる。今のようにスマホやSNSが当たり前の時代では信じられないが、この時代この土地には電話さえなく、手書きの紙だけが遠く離れた人と人をつなぐ唯一の手段だったことが分かる。もし受け取るはずのものを隠されていたとしたら、もし手紙が延々に手元に届かなかったとしたら、それはどんなに悲しいことだろうか。生死の確認さえできないのだ。

監督はスティーヴン・スピルバーグ。この物語の素晴らしさに完全に心を奪われていたスピルバーグは、アリスに「自分にやらせてほしい」と必死に“売り込み”をした(人気監督のプライドを捨てて)。なぜならこれはアリスの作品だからだ。当初アリスは自分の小説が白人ビジネスマンたちの手によって映画化されることに戸惑った。だがスピルバーグの熱意は本物だった。だから可能性に賭けることにした。

アリスは頼まれて悩んだ挙句、自ら脚本も書いた。一度書き上げた作品に帰ることほど書き手にとって辛いことはない。それでも脚本は新しいアイデアも取り入れて、『夕焼けの中に私を見て』という美しいタイトルになった。いい出来だったらしいが、アリスは辞退。新しい脚本家にチャンスを与えることにした。

スピルバーグにとっては「初めての大人の映画」。しかも自身が撮影中に父親になったこともあり、「この作品で成長できた」と振り返る。『カラーパープル』はアカデミー賞に10部門11候補でノミネートされたが(スピルバーグは監督部門でノミネートさえされず)、1部門もオスカー受賞には至らなかった。愚かなことにハリウッドは、黒人が主役という現実を直視できなかったのだ(映画に唯一出てくる白人市長夫妻の卑劣さにも似ている)。

注目すべきはキャスティング。ウーピー・ゴールドバーグは小さな劇場を巡業するコメディアンだったが、アリスがステージを見たことがきっかけで「主役のセリーを演じられるのは彼女しかいない」と思ったそうだ。スピルバーグも「君がやらないなら僕もやらない」と言ったほど。ウーピーはこれが映画初出演。

また、現在では全米で最もリッチで有名なキャスターとなったオプラ・ウィンフリーも本作のソフィア役で映画初出演。製作を担当していたクインシー・ジョーンズが仕事でシカゴへ出向いた時、たまたまホテルの部屋でTVをつけると、オプラが司会を務める番組をやっていた。クインシーは「ソフィアがいる」と思ったらしい。オプラはこの重要な役をもらった時のことを今でも「人生最高の日」と呼んでいる。

ダニー・クローバーが演じたミスター役は、暴力的で身勝手な男。しかしクライマックスで、自分のかつての愚かな振る舞いが原因でバラバラになった姉妹を再会させるため、“人のために役立つ”ことに目覚める。このシーンがあったからこそ、すべての男たちは救われた。

予告編

マーガレット・エブリーがブルーズ歌手を演じたジューク・ジョイントのシーン

『カラーパープル』

『カラーパープル』


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*日本公開時チラシ

*参考/『カラーパープル』DVD特典映像、パンフレット
*このコラムは2017年12月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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