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パーマネント・バケーション〜学費を注ぎ込んで卒業し損なったジャームッシュのデビュー作

2018.10.05

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“デビュー作”──なんていい響きだろう。想いがカタチになること。世に放たれること。それは多くの作り手にとって“特別な瞬間”でもある。傑作であるか否かが問題ではない。ミュージシャンや小説家が最初の作品を生み出したという事実に、何だかゾクゾクしてしまう。

これが金の掛かる映画の世界となると、自腹を切ったり借金してまで作り上げる人も珍しくなく、情熱や熱狂こそが「ものづくりの真髄」だと改めて思う。そういう意味で個人的に真っ先に思い浮かぶのがジョン・カサヴェテスの『アメリカの影』。そして今回取り上げるジム・ジャームッシュの『パーマネント・バケーション』(Permanent Vacation/1981)だ。

アクロンにいる時はいつも自分がストレンジャーのように感じていた。ところがニューヨークに来てみると、自分がよりストレンジャーに思えた。僕はニューヨークが大好きだ。


監督のジム・ジャームッシュは、17歳でニューヨークに出てバンド活動を開始。デル・ビザンティンスを結成する。その後、作家を志すためにコロンビア大学文学部へ入学。故郷の中西部の工業地帯(オハイオ州アクロン)では映画はあまり観ていなかったが、1974年にパリに9ヶ月滞在した時にゴダールや小津安二郎といったヨーロッパや日本人の映画作家を発見。同時にサミュエル・フラーなどのヒップなアメリカ映画にも触れた。

ニューヨークに戻ったジャームッシュは、作家として物語を綴り始めるが、それが極めて視覚的なものに変化したことを自覚。1975年になるとニューヨーク大学大学院の映画学科へ再入学する。ここで師となる伝説のニコラス・レイ監督と出逢い、助手を務めることになった。二人は演技、演出、シナリオなど映画のすべてを語り合った。

そして援助金や借金などで1万2000ドルを作り、卒業制作として『パーマネント・ヴァケーション』という16ミリを撮影。だが、卒業はしそこなった。最終学期の学費も注ぎ込んでいたからだ。

主人公の少年は社会に順応できない他の人々との奇妙な出逢いに流れ入り、あるいはそこから流れ出たりする。彼は絶えず動いている。自分を追いかけてくるようなものに対してそれが何であれ、いつも少しだけその一歩先を動いている。


アロイシユス・パーカー(クリス・パーカー)は、学校や家族、仕事とも縁のない16歳。眠れない彼は、気まぐれにニューヨークの裏通りを漂流する日々を送るだけ。「どんな人間も住んでいる部屋と同様、一定の期間を過ぎると、それぞれ固有の恐ろしい感覚に満たされ始める。解決方法は常に一歩先に進んでいること。動き続けることだ」という一つの考えに取り憑かれている。

何もないアパートで、とりあえず一緒に住んでいる恋人のリーラとの会話も弾まない。アロイシユスは好きなレコードを掛けて踊り始める。サックスが鳴り響くアール・ボスティックの「Up There In Orbit」で。そして読み飽きたというペーパーバック、ロートレアモンの詩集『マルドロールの歌』の一節を口にし、孤独についてリーラに説明する。

アロイシユスはそれから廃墟となった建物を訪ねたり、老朽化した病院を訪れたりする。精神を病んで入院している母親は、目の前にいるのが息子かどうか分かっていない。隣のベッドで老婆が発作的に笑い出す。投薬のために看護士が来ると、アロイシユスは病室を後にした。

ワケのわからないスペイン語の歌と戯れる女、やる気のない映画館のポップコーン売りの店員、「ドップラー効果」についてジョークを飛ばす黒人のジャンキー、即興演奏に没頭するサックス・プレイヤー(ジョン・ルーリー)。彼が出逢うのは決してメインストリートを歩いているような人々ではない。アロイシユスは翌朝、アパートの屋上で騒音でによって目覚める。

その後、能天気な女たちの高級車を盗んで800ドルの金を得たアロイシユスの心は、もうニューヨークになかった。アパートに戻ってみてもリーラはいない。スーツケースにわずかな服とパスポートを入れて別れの手紙を書くと、ドアをゆっくりと閉めた。

波止場から海を眺めるアロイシユス。スーツでキメて首にスカーフを巻いている。少し離れたところには自分と同じような年齢と出で立ちの少年がいる。彼はフランス人で、新しい場所に来て何が起こるか知りたくてニューヨークに着いたばかりだと言う。「パリはいいところだよ」とアロイシユスにアドバイスすると、二人は別れた。

スーツケース片手に船に乗り込むアロイシユス。「僕は一人の旅人だ。永遠の休暇(パーマネント・バケーション)の旅人だ」。船は高層ビルが建ち並ぶニューヨークの風景から次第に離れていく……。

全編に渡って流れているのはジョン・ルーリーのサックス。観る者に催眠術的な効果をもたらす即興演奏だ。本作は製作を開始する前日に亡くなった師のニコラス・レイの想い出に捧げられた。

こうして新しい感性の登場は世界中の映画祭に招待されることになり、ジャームッシュはロードムービーの映画作家ヴィム・ヴェンダースから40分ほどの余ったフィルムを譲り受けた。そしてそれを使って再びニューヨークを舞台にした30分の短編作品を撮り上げる。そう、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の最初の1部である。

予告編


印象的なダンスシーン

『パーマネント・バケーション』

『パーマネント・バケーション』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『パーマネント・バケーション』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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