「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SCENE

セッション〜“完璧な音楽”を求めてぶつかり合う狂気の師弟関係

2019.10.10

Pocket
LINEで送る

今、最も注目されている映画監督の一人、デイミアン・チャゼル。まったくの無名だったこの監督を一気に有名にしたのが『セッション』(Whiplash/2014)。サンダンス映画祭でグランプリを獲得し、アカデミー賞にもノミネートされてしまった。

僕は戦争映画、あるいはギャング映画のような音楽映画を作りたいと思った。楽器が武器に変わり、音楽が銃のように暴力となり、学校のリハーサル室やコンサートステージが戦場に変わる……僕は演奏の一つ一つを、カーチェイスや銀行強盗のような、生死を分ける闘いであるかのように撮影したかった。


まさに天才らしい発言ではあるが、実はこの作品は自らの体験が“原作”となっている。それは高校時代のジャズバンドで味わった恐怖体験。

チャゼルは毎日何時間も地下の防音室にこもり、手から血が出るまでドラムを叩き続けた。リズムをミスる恐怖。テンポが遅れる恐怖。そして指揮者に対する恐怖こそが何よりも大きかったからだ。その教師のおかげで、彼は吐き気を繰り返し、食事も喉を通らない日々を過ごす。大好きだった音楽が悪夢と化す。

結局、ニュージャージーの未熟な高校生バンドは、ダウンビート誌から「全米ナンバーワンのジャズバンド」に選ばれ、大統領就任式や有名なジャズフェスで演奏するほどの栄誉に輝く……教える側と教わる側の、あのあまりにも緊張に満ちた関係をもっと深く掘り下げるため、『セッション』は作られた。

(ここからストーリー。ネタバレ要注意)
全米屈指の名門校、シェイファー音楽院。バディ・リッチのような偉大なドラマーを目指して入学したニーマン(マイルズ・テラー)は、日々孤独な練習に打ち込んでいる19歳。ある日、学院の伝説教師フレッチャー(J・K・シモンズ)のバンドにスカウトされて歓喜する。

しかし、彼を待ち受けていたのは僅かなテンポのズレも許さない、異常なまでの完璧さを求めるレッスンだった。初日から椅子を投げつけられ、頬を平手打ちされ、屈辱的な言葉を浴びせられたニーマンは、泣きながら俯くことしかできない。彼に限らず、メンバー全員が悪魔のごとき形相のフレッチャーによる狂気じみた指導に怯え、支配されていた。

それでもニーマンは水ぶくれや切り傷にまみれた練習を通じ、ハンク・レヴィの「Whiplash」を暗譜してコンクールの優勝に貢献。補欠からバンドの第1ドラマーに昇格する。しかし、既に若きニーマンの内面は病み始めており、「偉大なドラマーになるため」に、彼を愛してくれる恋人との関係を一方的に断ち、家族に対しても心ない発言を口にするようになっていた。

何かに取り憑かれた表情のニーマンは、自分でも制御不能になっていた。コンクール会場へ遅刻した彼を、フレッチャーは罵って別のドラマーを起用しようとする。地獄のような特訓を繰り返したニーマンはそんなことで諦めるわけにはいかず、レンタカーに忘れたドラムスティックを取りに行く。

そして、引き返す途中で大型トラックと衝突してしまうニーマン。瀕死の状態で血まみれの彼は、それでも執念で舞台へとたどり着く。当然まともな演奏などできない。フレッチャーは「お前は終わりだ」と冷たく言い放つと、激昂したニーマンは観衆の前でフレッチャーに殴りかかる。

騒動以来、退学になったニーマンは、父親の怒りもあって弁護士と接触。フレッチャーの有名な教え子が最近亡くなったのは事故ではなく自殺だと知らされる。原因は鬱病で、それはフレッチャーの指導以降、悩まされるようになったのだという。弁護士は学院からフレッチャーを追放すれば、二度とこのような悲劇は起きない。そのためにはニーマンの協力が必要であること、匿名で証言することを迫る。

数ヶ月後、静かな学生生活を送るニーマン。ところがある夜、通り掛かったジャズクラブにフレッチャーが出演するのを偶然見つける。観客の中にニーマンを見つけたフレッチャーは声を掛け、酒を飲みながら、なぜあのような指導をしたのか話をする。

「下手だったチャーリー・パーカーに、ジョー・ジョーンズは演奏中にシンバルを投げつけて観客の前で笑い者にした。しかし、それがパーカーに火をつけ、翌日から死にもの狂いで練習に励み、1年後には誰も及ばないくらい偉大になった」。つまり、「よくやった」などと褒めるのは、第2のチャーリー・パーカーの才能を殺すことを意味する。それこそ悲劇ではないか。

そしてフレッチャーは近々行われるJVC音楽祭でバンドの指揮をとること。曲目がデューク・エリントンの「Caravan」など学院時代のレパートリーであること、今のドラマーに満足していないことを告げたのち、ニーマンに代役を務めることを持ちかける。ドラムへの情熱を取り戻したいニーマンは受諾した。

音楽祭当日。スカウトマンたちが集まる大舞台にも関わらず、フレッチャーはニーマンにだけ嘘の演目を教えて、恥をかかせる。実はニーマンの証言によって学院を永久追放されたことをフレッチャーは知っており、復讐を仕掛けたのだ。

呆然とするしかないニーマン。その場を立ち去ろうとするが……ステージに戻った彼は、もはやフレッチャーごときに主導権を握られるようなドラマーではなかった。ニーマンの凄まじいプレイに、フレッチャーは吸い込まれるように歓び、二人の関係は新たな領域に入っていく。

デイミアン・チャゼル監督はこの作品が思わぬ成功を収めたことで、今まで何度も無視され、断られてきた企画を実現することができた。次作『ラ・ラ・ランド』だ。

予告編


衝撃のラストシーン

『セッション』

『セッション』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『セッション』パンフレット
*このコラムは2019年12月19日に公開されました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SCENE]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ