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アリー/スター誕生〜無名時代に応援してくれたLGBTに敬意を表したレディー・ガガ

2023.10.04

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『アリー/スター誕生』(A Star Is Born/2018)


レディー・ガガの初主演作となった『アリー/スター誕生』(A Star Is Born/2018)は、同名映画の4度目のリメイク。とはいえ、1937年のジャネット・ゲイナー版、1954年のジュディ・ガーランド版の舞台は映画界なので、1976年の前作「スター誕生〜70年代型ロックスターの愛と別れを描くバーブラ・ストライサンド主演作」がベースになっている。

きっかけは主演・初監督を務めたブラッドリー・クーパーが、メタリカのコンサートに招待されたことから始まる。ドラムセットの後ろに立たせてもらった時、その迫力に圧倒されて、この時の感動を映画にして伝えたくなったという。実際、それは本作のコンサートシーンに活かされることになった。臨場感が凄いのだ。

このコンサートシーンは、2017年のステージコーチ、コーチェラ、グラストンベリーなどのフェスで撮影された。ウィリー・ネルソンや前作で主演したクリス・クリストファーソンは自分たちの出番を譲ってくれ、その数分間でクーパーたちは実際に演奏してカメラを回した。「ブラッドリー・クーパーです。今、映画を作っています。それじゃ行きます!」

クーパーは自ら演じるカントリー・ロックのスターを、ニール・ヤングのようなギターを弾き、トム・ペティやブルース・スプリングスティーン、パール・ジャムのエディ・ヴェダーのように歌うことを意識した。

彼は私を女優として受け入れ、私は彼をミュージシャンとして受け入れた。お互いに逆のことをしてるってね。


ある日、ガガの家にクーパーがやって来た。ガガがピアノを弾き、クーパーから提案があったCCRの「ミッドナイト・スペシャル」を一緒に歌った。この時、彼女は彼の歌声が本物だと分かった。クーパーはガガにノーメイクでありのままの姿になることを勧めた。

レディー・ガガの名前を口にすると、多くの人はその奇抜なメイクやファッション、ダンスポップを思い浮かべるだろう。しかし、彼女の本当の姿はピアノを弾きながら、魂を込めて歌い上げるソングライターだ。映画ではそんな彼女の実体験が投影されている。

大学を中退して音楽活動に没頭したのが19歳。クラブやバーで演奏し始めるが、レコード会社にまったく相手にされない。外見のコンプレックス(鼻の大きさ)をネタにされ、自分が作った曲をルックスがいいという理由だけで他のシンガーに歌われそうになったこともある。エディット・ピアフの「ラ・ヴィ・アン・ローズ」を歌ったり、LGBTコミュニティが描かれるシーンがあるが、これはかつて自分を応援してくれた彼女彼らに敬意を表すため。ガガの半生とリンクする部分が多い。

『アリー/スター誕生』は、「大人のためのお伽噺」ともいうべき愛の物語だ。そこに音楽がセリフのような役割を果たしながら絡む。ガガとクーパーは、ルーカス・ネルソン(カントリー歌手のウィリー・ネルソンの息子)らと共に曲作りにも参加し、サントラにはカントリーロック、バラード、ポップソングなど幅広いジャンルの音楽が収録。名曲「Shallow」を生み、アルバムチャートで3週連続1位を記録。

また、グラミー賞シーンでのロイ・オービソンのトリビュート演奏では、ブランディ・カーライルがシンガー、プロデューサーのドン・ウォズがベースで登場しているので、こちらも注目してほしい。

(以下ストーリー)
父親と二人で暮らすウェイトレスのアリー(レディー・ガガ)。夜はLGBTが集まる小さなクラブで歌いながら、歌手になることを夢見ている。だが現実は30代を迎え、生活にも疲れて諦めそうになっている。

そんなある夜。地元でコンサートをしていたカントリー・ロックのスター、ジャクソン・メイン(ブラッドリー)がクラブにやって来た。二人は意気投合し、深夜のパーキングで語り合い、歌う。スター歌手との夢のような一夜はこうして過ぎていった。

アリーに惚れ込んだジャクソンは、自分のコンサートにアリーを招待。無名の彼女を大観衆に紹介し、アリーが作った歌をデュエットする。この動画が話題になって、アリーはスターの階段を駆け上がっていく。二人は恋に落ち、メンフィスで結婚。

しかし、難聴にアルコール中毒にドラッグの使用と、ジャクソンは常にギリギリの状態だった。良き理解者だった兄でありマネージャーのボビー(サム・エリオット)とも亀裂が生じ始める。一方、売れっ子となったアリーは、操り人形のようなポップスターになっていく。支えはジャクソンだけだった。

そしてグラミー賞のシーズン。アリーの晴れの舞台に付き添った酒浸りのジャクソン。二人の立場は逆転。受賞スピーチで最悪の事件が起きてしまう……。

予告編


名曲「Shallow」が生まれた







*日本公開時チラシ


*参考・引用/『アリー/スター誕生』パンフレット
*このコラムは2018年12月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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