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パラダイス・アレイ〜スタローンが主題歌を歌ったトム・ウェイツの俳優デビュー作

2023.08.24

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『パラダイス・アレイ』(Paradise Alley/1978)


民放のロードショー番組にまだ色気や体臭が漂っていた1980年前後。日本の家族が今よりもまだ健全だった頃。

リビングで父親が黙って映画を観ている姿が好きだった。自分の部屋にテレビなど置いてもらえない息子は、何も言わず隣に座って画面を眺める。会話は少ない。家で一緒に映画を観ているだけなのに、夜9時から11時前までのひとときがなぜか心地良かった。終わるとテレビを消して、「おやすみ」と言ってゆっくりと寝室へ上がっていく父親。そんな姿を何度見たことだろう。

あれから40年近くが経った。あの頃のロードショー番組で放映された数々の70〜80年代産の映画は、今ではいつでもどこでも好きな時に気軽に観ることができる。日本の子供たちはテレビよりスマホの画面と向き合う。そしてリビングから父親たちの姿が消えた……。

こんなことを考えていると、あの頃の映画が蘇ってくる。それは誰もが知るヒット作や有名作ではなく、どちらかというとB級映画。少なくともネット環境が整うまでは一般的には忘れ去られていた映画。中でも『スラップ・ショット』(1977)や『カリフォルニア・ドールズ』(1981)はそんな筆頭格。そして今回紹介する『パラダイス・アレイ』(Paradise Alley/1978)も、“テレビを眺める息子たち”に強い印象を残してくれた1本だった。

脚本・監督・主演は、『ロッキー』(1976)の成功でアメリカン・ドリームを掴み取ったシルヴェスター・スタローン。これが初監督作。ニューヨークのスラム街で過ごした自らの日々を取り入れた内容で、現状打破の世界を再展開。おまけにビル・コンティによる主題歌まで歌った。オープニングで流れる「Too Close to Paradise」というその曲は、はっきり言って下手だけど素晴らしい。

1946年、終戦後のニューヨーク。ヘルズ・キッチンと呼ばれるスラム街で暮らすイタリア系の3兄弟。映画は彼らの人間関係や苦悩を軸に、やがて賭けプロレスで夢や希望を勝ち取ろうとする姿を描く。

日本ではプロレスのNWA世界チャンピオン、テリー・ファンクの出演も話題になった。ザ・ファンクスとして兄ドリーとタッグを組み、ゴールデンタイムのプロレス放送でお馴染みだった親日家のプロレスラー。また、1983年5月に放送されたロードショー番組では、3兄弟の末っ子役を初代タイガーマスクの佐山聡が吹き替え。

今回改めて観ていると、思わぬ発見があった。何とトム・ウェイツの俳優デビュー作だったのだ。役どころはもうこれしかないといった感じの、安酒場のピアニスト役。マンブルズという名でちゃんとセリフもある。さらにサントラにストリングス入りのピアノバラード「(Meet Me In) Paradise Alley」と「Annie’s Back In Town」の2曲を提供。これがまたいい。『パラダイス・アレイ』を観るときは、この点にも注目してほしい。

スタローンが歌う主題歌「Too Close To Paradise」

トム・ウェィツの「(Meet Me In) Paradise Alley」

トム・ウェイツの出演シーン

『パラダイス・アレイ』

アーティスト名『アルバム名』

詳細/コメント






*日本公開時チラシ

*参考・引用/『パラダイス・アレイ』パンフレット
*このコラムは2019年1月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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