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アリスの恋〜シングルマザーの前進していく力を描くロードムービーの名作

2019.03.14

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これはあくまでも周囲の話だが、結婚したカップルの約半分は離婚しているように思う。子供がいないケースだと1〜3年程度、いるケースだと3〜5年(子供がまだ小さい)が多い。そして最近は再婚したという話も聞くようになった。世の中的には結婚する4組に1組は再婚だそうだ。

子供がいる人たちが再婚で結ばれる。子供がいる相手と一緒になる。そんな再スタートの形を「ステップファミリー」と呼ぶらしい。日本もこれからこういった家族が増えていくだろう。ちなみにシングルマザーに娘がいる、シングルファーザーに息子がいる方が、子供の視点からはステップファミリーは成立しやすいという。「同性の相手に自分の親を取られる」というライバル視や心配が少ないからだ。

『アリスの恋』(Alice Doesn’t Live Here Anymore/1974)を観ていて、そんなことを考えた。映画の主人公は35歳のシングルマザー。12歳の息子がいる。この場合はどうなのか?

主人公のアリスを演じたエレン・バースティンは、この時私生活でも離婚したばかり。脚本を読んで大きな共感を抱き、自立を目指す女性の姿に自らをダブらせたという。70年代前半といえば、アメリカでもまだなかなか理解を得られなかったのがシングルマザーという生き方。それまで平凡な生活を送っていた主婦が一度は諦めた夢に向かって歩み始める。つまり「これが私の人生。男に捧げるためのものじゃない」。ロードムービーとしても男性のアシスト役でない存在感は、当時としては斬新な感覚だった。

バースティンはこの画期的な作品の監督を誰にすべきか、親交のあったコッポラに相談することにした。すると「『ミーン・ストリート』は観た?」と言ってマーティン・スコセッシを推薦された。後日対面した際、男の世界を描くのが好きそうな新人監督に「これは女性の映画。あなたにできそうかしら?」とバースティンが尋ねると、スコセッシは「分からないけど勉強して頑張る」と返答。バースティンはその虚飾のない誠実な対応に信頼を寄せた。

『アリスの恋』を貫くのはリアリティ、そして前進していく力だ。オープニングは『オズの魔法使』的な少女時代のノスタルジーが綴られるが、一変して横暴な夫との結婚生活で現実が始まっていく。アリスは若い時に結婚。今は反抗的な子供を育てながら主婦をしているが、夫との関係にもはや愛も絆もない。その夫が事故死すると、一時の悲しみは安堵感へと変わり、自己の再発見=歌手になる夢が蘇る。

故郷のモンタレーへ帰って夢を叶えようとするアリスは、息子を連れ立って車で出発。お金がないので、モーテルに泊まりながら、立ち寄った街のバーやクラブで歌って稼ぐプランを練る。しかし雇い入れてくれる店もなく、早くも挫折感を味わう。やっとのことで歌の仕事にありつくアリスだが、気を許したDVの男(ハーヴェイ・カイテル)のせいで辞めざるを得ない。

やがて歌ではなくウェイトレスの仕事に就くアリス。店の常連で牧場主の男(クリス・クリストファーソン)から気に入られるが、道中のこともあり一歩踏み出せない。それに歌手になることが目的の旅なのだ。一方、反抗的な息子は地元の女の子(ジョディ・フォスター)にそそのかされてトラブルを起こし、忙しい母親を困らせる。アリスは本当に夢を叶えることができるのだろうか。

映画のエンディングは、撮影当日まで決まらなかった。アリスが結婚したら、歌手になる姿は描けない。逆に夢を取れば、愛は描けない。するとクリス・クリストファーソンがアイデアを出した。「本当に彼女を愛しているなら、俺なら一緒についていくけどな」。この一言で男が牧場を捨て、アリスと結ばれて、彼女の夢に協力していくという結末が決まった。エレン・バースティンはアカデミー賞主演女優賞に輝いた。

次作『タクシー・ドライバー』で映画界に衝撃をもたらすスコセッシ監督は、この映画でいろんなことを学んだ。中でも牧場での撮影シーンは笑い話になっている。スタッフは牧場を借りるために牧場主である夫婦に金を払い、どこか他の場所に泊まってもらうことにした。しかし撮影がスケジュール通りに運ばず期限だけが迫った。延長を申し出たが、答えは頑なにノーだった。

急いでリビングで撮影していると、夫婦はスタッフの間に割り込んで撮影をずっと眺め始めた。「カット! もう一回」と監督が仕切ると、「今のがいいわ。それでいきましょうよ!」という夫婦の声で遮られた。スコセッシは周囲を見渡して言った。「こんな状況で撮影した監督って他にいるのかな」

予告編


『アリスの恋』

『アリスの恋』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『『アリスの恋』』パンフレット、DVD特典映像

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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