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パーティで女の子に話しかけるには〜パンクのDIY精神を描くJ・C・ミッチェル監督作

2019.05.07

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映画に出たり、ブロードウェイの舞台に立ったり、時には脚本も書いてみたり、そのどれも成功せずに悶々とした日々を送っていた1990年代半ばのジョン・キャメロン・ミッチェル。そこで「ロックンロールを舞台でやってみたい。自分の言葉でロックスターの物語を書きたい!」と一念発起したのが、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』だった。

NYのクラブでのパンクイベントで初演されたというこのミュージカルは、ソングライターのスティーヴン・トラスクと試行錯誤を重ねながら完成。1997年にはオフ・ブロードウェイの劇場に進出し、翌年には続演のための専門劇場が作られて2年半以上のロングラン・ヒットを記録する。ヘドウィグの髪型のかぶり物をしたヘドヘッド(Hedhead)と呼ばれる熱心な追っかけファンも登場。ルー・リードやデヴィッド・ボウイ、マドンナといったアンダーグラウンド出身のセレブたちからも絶大な支持を得ていく。

こうしてジョン・キャメロン・ミッチェルの名はすっかり有名となり、全米ネットのトーク番組に出演したり、特集記事が組まれるほどヒップな存在に躍り出た。その後、2001年には監督・主演も兼ねて映画化。独特の個性と世界観を放つ「ポスト・パンク・ネオ・グラムロック・ミュージカル」は同年のサンダンス映画祭で大絶賛を浴び、愛を追い求める無名のロックシンガーの数奇な半生は世界中の観客を魅了した……。

あれから15年以上。時代は変わった。『パーティで女の子に話しかけるには』(How to Talk to Girls at Parties/2017)で、ジョン・キャメロン・ミッチェルは再びパンク・スピリットを取り上げた。

今の若者は受け身になってしまっている。一つの考えに右に倣えでは魂が痩せ細ってしまう。トランプ政権のアメリカにはパンクが必要だ。彼は自分たち以外は外に出ろという。排他的な今の時代だからこそ、新しいパンクが必要だと思うんだ。パンクは排他の反対で、包括的なもの。国籍、ジェンダーなど関係ない。


パンクの教えの一つに「全部自分たちでやる」というDIY精神がある。ジョン・キャメロン・ミッチェルはそういう意味でパンクの人でもある。決して大予算が掛けられた映画ではない。ゆえにややチープな部分もある。もうちょっと高度な映像表現ができたのではと思う箇所がいくつかある。でもそれが完璧に実現したとしたら、きっとパンクの美学から外れてしまう。「ジョン・キャメロン・ミッチェルの映画」ではなくなってしまう。

今回は原作に、イギリス出身の世界的なコミック/SF作家ニール・ゲイマンが2006年に発表した自叙伝的短編小説を使った。ゲイマンもパンクをルーツに持つ人だ。「とにかくやってみること。何でもいいからただやってみろ」。この精神を若い時に身につけられたおかげで、創作時などで闇に飛び込んでしまって途方に暮れた時に、今でも自らを力づけてくれるという。

主演はエル・ファニング。ソフィア・コッポラ監督『SOMEWHERE』、キャメロン・クロウ監督『幸せへのキセキ』、マイク・ミルズ監督『20センチュリー・ウーマン』などで、彼女の魅力にやられた人は少なくない。今後どんな“決定的な1本”に出てくれるのかが楽しみな女優だ。

物語の舞台は1977年。エリザベス女王即位25周年の祝典に沸くロンドン郊外。イラストや漫画が得意なエン(アレックス・シャープ)は、「ウィルス・ボーイ」というキャラでパンクの世界を描くのが好きな内気な高校生。ある夜、仲間と一緒にライヴハウスへ繰り出し、打ち上げパーティーに潜り込もうとするが、扉を叩いた先はちょっと不思議な人たちがいる空間だった。

そんな中、同年代の少女ザン(エル・ファニング)と出逢うエン。二人はパンクがきっかけで恋に落ち、刺激的な時間を過ごす。だがザンに与えられた時間には限りがあり、どうやら別世界の掟に囚われている様子。そう、ザンは宇宙から来た女の子だったのだ。エンはパンクバンドの敏腕マネージャー、ボディシーア(ニコール・キッドマン)に協力してもらいながら、何とかザンを止めようと作戦を練る……。

パンクにファンタジー。映画を観ながら、途中で正直ちょっと冷めた自分がいることを感じた。今いる世界と余りにも距離感があるからだ。でもすぐにこう思った。

「全部自分たちでやる」というDIY精神
「とにかくやってみること。何でもいいからただやってみろ」

多くの人は大人になることで、それを失う。とても大切な何かを……タイトルに騙されてはいけない。『パーティで女の子に話しかけるには』は、誰もが10代の頃に育んだ“密かな想い”を取り戻せる映画だ。

予告編


『パーティで女の子に話しかけるには』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『パーティで女の子に話しかけるには』DVD特典映像、パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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