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ウォーカー〜ジョー・ストラマーが音楽を担当したアレックス・コックス監督作

2021.12.23

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『ウォーカー』(Walker/1987)


『レポマン』(1984) 『シド・アンド・ナンシー』(1986) 『ストレート・トゥ・ヘル』(1987)と、立て続けに熱い作品を放っていたアレックス・コックス監督が手掛けた4作目『ウォーカー』(Walker/1987)。

まるで世界の中心にいて、それが全てであるかのようなアメリカ合衆国の価値観や世界観に反抗心を抱いていたイギリス出身のコックスは、自身の作品にアメリカ批判を反映することでも知られているが、「のけ者にされたアウトローを描くこと」も彼特有のもう一つの重大なテーマ。『ウォーカー』はその両面が痛烈に描かれた映画となった。

コックスが目をつけたのは、19世紀半ばのニカラグアで冒険家から独裁者に変貌したウィリアム・ウォーカー。アメリカ史ではページから完全に抹殺された男だったが、ニカラグアでは「悪のアメリカの象徴」として忘れられることはなかった。

法律・医学・ジャーナリズムを身につけていたウォーカーは、その行動力と実績から財界の大物ヴァンダービルトに気に入られ、植民地化政策のもと小国ニカラグアを攻めて支配するように依頼される。美しい婚約者のいるウォーカーは、権力を持つことよりもっと高尚な目的を人生に見出しており、この話をきっぱりと断った。

しかし、愛する人が病で息を引き取った時、絶望したウォーカーは過去と決別してこの任務へと向かう。アメリカは「我々は神の啓示により、隣接国の経済・政治の文明化に努める権利を持っている」というマニフェスト・デスティニーに傾いた時代。領土拡張という侵略は大義名分になった。

1855年。58人の不死隊を率いてニカラグアに渡ったウォーカーは、32歳にしてニカラグアの大統領の座につき、次第に非情な指導者となり2年に渡って統治。狂信的な振る舞いと抑圧ぶりは現地民たちの怒りを蓄積していく。そしてエゴイズムは内部からの反感を買い、遂には支援者ヴァンダービルトと対立。炎が舞い上がり銃声が飛び交い始める……。

ウォーカーの最期は1860年、36歳の時にホンジュラスにて処刑されて終わる。コックスはこの実話を映画化するにあたって、撮影当時のレーガン政権のあり方とニカラグア情勢が、1世紀以上前のウォーカーの時代と何ら変わっていないことを知る。そこで皮肉を込めて、19世紀半ばの舞台に自動車やヘリコプター、コンピュータやニューズウィーク、マルボロやコカコーラを小道具として使った。

エンディングでは実際にレーガン政権の映像も流れる。アメリカの資金が暴力となって内戦が激化するニカラグア。コックスは黙っていられなかったのだろう。サンディニスタ政府の許可を得て、撮影は実際にニカラグアで行われた。だが、ウォーカーはそんな自分を「ブタ」と呼ぶ。

俺たちはただの資本主義のブタでしかないからね。カウボーイごっこをして遊んでいるブタだよ。でもニカラグアの基準から言えば、よく食べる贅沢なブタだとしても、アメリカの基準で言えば、みんな粗末な設備でよく頑張ったと思う。トレーラーもない。屋外用トイレもない。メイクルームもない。それなのにみんなの気分は充実していた。俳優陣の雰囲気もとても良かった。泣き言や文句は一切なかった。


『ウォーカー』を語る時、他に2人のアウトサイダーについても触れておかなければならない。一人はこの映画の脚本家ルディ・ワーリッツァー。モンテ・ヘルマン監督『断絶』やサム・ペキンパー監督『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』で知られる。

そしてもう一人は音楽を担当したジョー・ストラマー。ザ・クラッシュ時代にはニカラグアの革命政権の名をタイトルにしたアルバム『サンディニスタ』を制作。パンク精神が宿るコックスには、ストラマー以外は考えられなかったに違いない。(中野充浩)

予告編


『ウォーカー』

『ウォーカー』






*日本公開時チラシ

*参考・引用/『ウォーカー』パンフレット
*このコラムは2019年5月に公開されました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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