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マンハッタンの哀愁〜都会の孤独とマル・ウォルドロンの「オール・アローン」

2019.07.31

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ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』を初めて観た時、衝撃というよりは全編に漂うそのムードに完全にやられてしまった。モノクロフィルムにとらえられたパリの街並み、夜を彷徨う男と女の姿、マイルスのトランペット……すべてが混ざり合ったそのムードがどこまでも心地良かった。

これまでTAP the SCENEで取り上げた映画の中には、実はそんなムードを重視した作品がたくさんある。練られたストーリー、映像の凄さ、俳優の存在感で魅了するだけが映画ではないのだ。

今回の『マンハッタンの哀愁』(Trois chambres à Manhattan/1965)もそんな作品の一つ。フランス映画の巨匠マルセル・カルネがマンハッタンの街を舞台に喪失感に包まれた男と女を静かに描いていく。そこには煙草と酒、モダンジャズといった夜の文化があり、都会でしか生きられない者の愛と孤独が鼓動する。

また、モノクロの中のマンハッタンは切ないほどに美しく、例えばウディ・アレンなどは間違いなくこの映画に心を奪われたに違いない。当時60歳近かったカルネ流のヌーヴェルヴァーグ。そんな印象を受けた。

原作はフランスの推理作家ジョルジュ・シムノンの小説『マンハッタンの三つの部屋』。音楽を担当したのはチャールズ・ミンガスとの仕事や晩年のビリー・ホリデイの伴奏者を務めたことでも有名なマル・ウォルドロン。男女の感情の起伏を盛り上げるサウンドトラックには聴きどころが多く、中でも映画のテーマ曲である「All Alone」は今も日本のジャズファンに人気が高い。

主演はフランス映画と言えばこの人的な名優の一人、モーリス・ロネ。そして映画をよく観ると大発見がある。何とロバート・デ・ニーロが出ているのだ。と言ってもこの頃は彼も駆け出しの無名役者。エキストラでレストランの客役でセリフもない。パリにいた頃、たまたま舞い込んだのがこの仕事だった。もらったギャラはすぐに消えたそうだ。

「パリの安宿に泊まり、街の芸術家たちと仲良くなった。でも金がなく、食費にも事欠く始末。一ヶ月くらいブラブラして小劇団に参加していた時、映画に出演したんだ」

フランソワ(モーリス・ロネ)はパリで妻に逃げられ、今は仕事を求めてマンハッタンで暮らしている。ある夜、酒場でケイ(アニー・ジラルド)という女に出逢う。彼女も離婚したばかりで、二人はお互いの孤独を埋め合うように関係を深めていく。時には傷つけ、嫉妬し、見失なうものの、フランソワにはケイが必要だった。

そんな時、ケイの幼い娘が危篤という知らせが入る。一人残されて不安でたまらないフランソワは若い女と一夜を共にしてしまう——『マンハッタンの哀愁』にはムードがある。

映画のテーマ曲であるマル・ウォルドロンの「All Alone」


ロバート・デ・ニーロの出演シーン


『マンハッタンの哀愁』のDVDは廃盤中。

*参考・引用/『マンハッタンの哀愁』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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