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クイーンとアバからポップスの遺伝子を受け継いだ新世代~レックス・オレンジ・カウンティ

2019.12.16

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2019年は10代から20代前半のアーティストたちが、アメリカのポップ・ミュージックの中心に踊り出た年であった。
わずか17歳で全米アルバム・チャートの1位を獲得したビリー・アイリッシュや、昨年に引き続きシングル・チャートを席巻した22歳のポスト・マローン、そして全米シングル・チャートの連続首位の記録を打ち立てた21歳のリル・ナズ・X。彼らはカントリーやR&B、ロック、ヒップホップといった様々なジャンルを、新しい感覚で捉え折衷することで、今までにないポップ・ミュージックを作り上げている。

そしてイギリスでも新しい感覚を持って、ポップ・ミュージックを作り上げるミュージシャンが登場した。21歳のアレックス・オコナーによるソロ・プロジェクト、レックス・オレンジ・カウンティである。

アレックスはロンドン郊外の村、グレイショットで1998年に生まれた。
幼い頃から親の影響で、歌やドラムのレッスンを受てきた。やがてアーティック・モンキーズのようなガレージロックや、ブリンク182のようなメロディック・パンクの楽曲たちに合わせて、ドラムを叩くようになっていく。

転機が訪れたのは、16歳の時だった。
アレックスはロンドンに移住し、アデルやエイミー・ワインハウスらを輩出した音楽学校、ブリットスクールに通うようになる。
ドラマーとして入学した彼は、圧倒的なセンスとリズム感を買われ、ロックだけでなくジャズやアフリカンなど、幅広いジャンルの楽曲を仲間と共にセッションするようになる。

しかし、ミュージシャンを志す若者たちといる中で、アレックスの興味はソングライティングに向いていく。
自分より音楽が詳しく、のちにミュージシャンとして活躍するようになる仲間たちにインスパイアされて、自分で作詞作曲を始めた。
アレックスがその時に思い出したのは、幼少期に家族の影響で聴いていたクイーンやアバだった。

「僕はクイーンやアバからメロディやハーモニー、楽曲の構造を学んだんだ。そういう音楽をたくさん聴いて、自分自身のソングライティングの基礎になっていることがわかった」

(HUNGERインタビュー ’REX ORANGE COUNTY LOVING ABBA AND CHILLING WITH TYLER,THE CREATOR’より)



自分が生まれる10年前の音楽から作曲のインスピレーションを得て、アレックスは自分が聴いていたジャズやヒップホップを基調にした、ポップミュージックを作り始める。

ギターやベース、打ち込みソフトを習得し、自室で一人楽曲を作っては「レックス・オレンジ・カウンティ」というアーティストネームで、YouTubeやSound Cloundにアップするようになった。



まだ荒削りでラフなサウンドでありながらも、レックスの素朴な声と80年代のポップスのメロディとヒップホップのリズムとフロウを咀嚼した楽曲は、インターネットの音楽好きの間で徐々に話題になっていく。

「ポール・サイモンとフランク・オーシャン(2010年代のトップR&Bミュージシャン)の融合」や「エリオット・スミスとジャネット・ジャクソンのかけあわせたような音楽」と評された彼の音楽が注目されるようになったのは、2017年だった。

アメリカの人気ラッパー、タイラー・ザ・クリエイターにフィーチャーされたことで、アレレックス・オレンジ・カウンティの名前はイギリスだけでもなく、アメリカでも広まった。

さらには自身の楽曲がヒットし、1年が経つと彼のライブでは同年代の若者たちが、楽曲を一字一句漏らさずに合唱するという風景が当たり前になった。

レックスがアバやクイーンから学び取ったメロディとハーモニーは、2010年代を生きる若者の心も掴んだのである。



さらにはベニー・シングスやランディ・ニューマンといったポップス界の巨匠たちと共演し、20歳にして「次世代のポップソングライター」とまで言われるようになったのだ。

そんなレックス・オレンジ・カウンティがリリースしたアルバム『Pony』は、ポップソングのソングライターとしての才能を遺憾なく発揮した作品だ。
1曲目に収められた「10/10」は、自分の過去と現在に想いを馳せながら「今は10点中5点でも、いつか10点満点中10点の人生を送れる」と歌う。



彼は注目されたことによるプレッシャーと、ポップミュージシャンとして成長していくことの決意をポップ・ミュージックとして昇華したのだ。

1980年代にアバやクイーンが生み出した上質なポップソングのエッセンスは、1990年代に生まれたミュージシャンによって受け継がれ、また新しい音楽として生まれ変わっている。




Rex Orange County『Pony』
Sony

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