「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

ミュージックソムリエ

スティーヴィー・ワンダーとマイケル・ジャクソンでR&Bに目覚めたOfficial 髭男 dism 〜「雑食さ」が生む新しい日本語ポップス〜

2019.12.31

Pocket
LINEで送る

2019年の日本の音楽シーンを席巻したバンドOfficial 髭男 dism(オフィシャルヒゲダンディズム)、通称ヒゲダン。
4月にリリースした楽曲「Pretender」はSpotifyやApple Musicなどのストリーミングチャートで1位を記録し、紅白歌合戦の出場も果たした。
また、彼らの過去にリリースしたシングルやアルバムの楽曲までもがストリーミングサービスでヒットを記録し、まさに「ヒゲダン現象」ともいうべきブームを巻き起こしている。

ヒゲダンの音楽の魅力は、様々な時代のポップミュージックのセンスを受け継いだポップセンスにある。
そうした音楽が生まれた背景には、ソングライターでありボーカリストの藤原聡が高校生の時に出会った往年の名曲たちがあった。

鳥取出身の藤原は幼稚園生の時からピアノを習い、小学生になるとドラムを叩き始めるなど、幼い頃から楽器に慣れ親しんで育った。
そんな彼に転機が訪れたのは高校生の頃。
若くしてドラムとピアノの腕を上げていた藤原は、同じ音楽スタジオに通っていた50代のアマチュアミュージシャンたちのコピーバンドに参加することになる。
彼より30歳も離れたミュージシャンたちと演奏したのは、スティーヴィー・ワンダーやアース・ウィンド&ファイア、ボズ・スキャックスといった1970年代のR&BやAORのアーティストの楽曲だった。

そのときに藤原は、往年の名曲たちの持つリズムやメロディに魅了されたのである。
さらに高校三年生の時には、マイケル・ジャクソンの映画『THIS IS IT』に出会う。

「高校三年生の頃にマイケル・ジャクソンが亡くなって、映画を観て初めてそこで、こんなにもグレイテストショーマンが居たんだ!って思って(中略)そこからボーカリストに目覚め始めたわけです。」
(ザ・テレビジョン 2019年5月16日 インタビューより)


しかし藤原はそのままR&Bにのめり込んだわけではなかった。
他にもドラマーとしてハードロックやヘヴィメタルのコピーバンドを経験し、日本のロックやJ-POPを聴くようになる。
ジャンルや時代を問わず、いわば雑食的にいい音楽に触れることで、彼のポップセンスは養われていった

そうして島根の大学に進学した藤原は音楽サークルでコピーバンドを続けるとともに、同じサークルのベーシスト楢崎とドラムの松浦、そしてライブハウスで出会ったギタリスト小笹と共にOfficial 髭男 dismを結成する。
彼らの共通点は、ジャンルに縛られずに音楽を聴くこと。パンクやJ-POP、ロックやジャズまでを聴き、演奏する4人がバンドに揃った。

結成当初は特段ジャンルを決めずに活動を始めたヒゲダンだが、藤原が楽曲を作っていくうちにたどり着いたのは彼自身の原点であるR&Bであった。
こうして、メロディはJ-POPのように親しみやすいものでありながら、サウンドにR&BやAORの意匠を取り入れた曲を志向していく。
そして2015年のインディーズでのデビューから2年、Official 髭男dismの試みは「Tell Me Baby」という楽曲で結実する。



1980年代のディスコミュージックを彷彿とさせるシンセサイザーのフレーズと打ち込みのビートが印象的なこの楽曲は、ブルーノ・マーズをはじめとしたアメリカのR&Bとも通じる魅力があった。
また藤原の歌唱は、彼自身のルーツであるマイケル・ジャクソンのように甘い切なさとソウルフルさを同時に感じさせるものであった。
この楽曲をSuperflyやエレファントカシマシを手がけた音楽プロデューサーの蔦谷好位置が、地上波のテレビ番組で絶賛したことで彼らの音楽に注目が集まったのだ。

この「Tell Me Baby」がきっかけとなり、ヒゲダンにドラマの主題歌のオファーが舞い込み、翌年にはメジャーデビューを果たす。
しかし、彼らは一つの方法論に囚われることなく、新しい音楽を追求し続けた。

メジャーデビュー後に発表した「Stand By You」はアメリカのヒップホップアーティスト、チャンス・ザ・ラッパーからインスパイアされ、ヒップホップの3連符のビートとゴスペルのリズムの中で日本語の韻を響かせる挑戦的なポップミュージックだ。



そして大ヒットを記録した「Pretender」も、日本語ポップスの枠組みの中で、世界のポップミュージックのエッセンスを取り入れるチャレンジの中で生まれた楽曲である。



イギリスのスタジアム・ロックのような広がりのあるギターフレーズと、1980年代のポップミュージックのような浮遊感のあるシンセサイザーのフレーズ、そしてヒップホップのビートのようなハイハットを刻むドラムの掛け合わせは、懐かしさを感じさせながらも新しさを感じさせるものであった。
そして日本語の音を生かした韻やスキャットのようなフレーズは、90年代のJ-POPの雛形を継承したものでありながら、歌詞における描写はかつての歌謡曲のように聴衆が想像を巡らせることができる余白を感じさせる。

こうして自分自身のルーツと、リスナーとして聴いてきた様々な年代やジャンルの音楽の要素を継承し、掛け合わせることでOfficial 髭男 dismは新しい日本語ポップスを作り上げたのである。



Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

    関連記事が見つかりません

[ミュージックソムリエ]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ