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歌とトランペット、二つの音で魅了するブラックゴールド

2016.03.28

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Black Gold



2012年、エスペランサ・スポルディングが発表した名曲。黒人の子供として生きていくことの厳しさを諭しつつ、可能性を信じて励ます母の歌。温かみのあるメロディーと歌声には、おおいに励まされます。

本日の主役は、2015年にデビューしたトランペット奏者兼シンガー・ソングライター、タラ・カナンガラ。彼女はエスペランサ・スポルディングの音楽を一つの切っ掛けとして、自身のスタイルを確立しました。

カナダのオタワ生まれ、バンクーバー育ち。スリランカからの移民の娘であるタラ・カナンガラ。彼女は音楽教育に熱心だった両親によって、幼少期からピアノ、フルート、トランペット、声楽を学んでおり、音楽大学も優秀な成績で卒業しています。
彼女が目指していたのはマイルス・デイヴィス。

Round Midnight


泉から溢れるように、メロディアスなフレーズを繰り出すトランペッター、マイルス・デイヴィス(50年代中盤までのスタイルです)。
自分もこのような歌心を持ち、且つインスピレーションに溢れたトランペットを吹きたい。それが彼女の目標でした。

2013年、27歳の彼女はトランペット奏者として切磋琢磨する日々。しかし卓越した腕前を持つ彼女であっても、通りでのパフォーマンスではなかなか人々も立ち止まってはくれません。
そこである日、タラのもう一つの武器である歌を披露したところ、より多くの聴衆を獲得することが出来ました。これをきっかけとして歌唱とトランペット奏者、一人二役を演じることを決意。

そんな時、彼女が参加していたバンフ・インターナショナル・ワークショップ(カナダ、アルバータ州にある、ジャズを専門とする体験型セミナーを実施するワークショップ)に現れたのがエスペランサ・スポルディングでした。

ベース奏者とヴォーカリスト、二役を軽やかにこなしている彼女を見て、タラは大いに励まされ、自分のやろうとしていることが出来ると確信したのです。
そして、自分の音楽を手に入れた彼女は2015年9月、29歳にして初めてのアルバム(2013年にEP1枚あり)『Some Version Of The Truth』を発表しました。

Show Me Where To Go


華やかなイントロとそれに続く、朝の海に鳴り響く汽笛のごとく、たおやかな音色が素晴らしいトランペットの演奏。小鳥のさえずりにも似た美しい高音が映える、爽やかな歌唱。少し気怠げなところもポイント。
そんな歌とトランペット。主役である二つの音がスムーズに繋がっていることによって、生き生きとした表情豊かな音楽が生まれています。
透き通った音色のピアノ、後半にブルージーなソロを披露するギターなど、バックの演奏も素晴らしい。

アルバムはサウンド・オブ・ミュージックの「Edelweiss」、トム・ヨーク(レディオヘッド)の「Atoms for Peace」のカバーを含む全10曲。
ジャズも、ソウルも、ボサノヴァも、ロックも、ポップスも。ジャンルを横断した素晴らしい音楽が詰まったアルバムです。

マイルスに感化され、エスペランザ・スポルディングに後押しされたトランペット奏者にしてシンガーであるタラ・カナンガラ。早速、今年のジュノー賞(カナダの音楽賞)ではジャズ部門にノミネートされており、これからの活躍に目が離せません。

(ミュージックソムリエ 旧一呉太良)


Tara Kannangara『Some Version of the Truth』

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