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ロバート・ジョンソンってなんだい?〜桑田佳祐「ヨシ子さん」に寄せて〜

2016.07.18

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桑田佳祐の3年ぶりの新曲「ヨシ子さん」が最近、あちらこちらからよく聴こえてくる。
リリース後、各局の音楽番組に出演しているからかもしれない。
サザンオールスターズの復活時よりも、積極的にメディア露出をしている気がする。

そこで歌われているのは「波乗りジョニー」などの桑田流J-POPとは一線を画した、得体の知れない”ヤバい”曲である。
安っぽいシンセサイザーが奏でるイントロ、民族音楽のようなリズム、幽霊を思わせるようなコーラスなど、現代のJ-POPの中において異質な要素が詰め込まれている。

この歌を発表したときに桑田佳祐は、「平成のロバート・ジョンソン」と自ら評していた。
だが、まだ19歳の僕は恥ずかしながらロバート・ジョンソンを知らなかった。
「ヨシ子さん」の歌い出しは「R&Bってなんだい?兄ちゃん(Dear friend)」である。
僕からすれば「ロバート・ジョンソンってなんだい?」だった。

そう、僕は2016年に届けられたこの曲によって、初めて1930年代を生きたブルースマンに引き合わされたのだ。

そしてTAP the POPの「ロバート・ジョンソン〜満たされない野望」を読んで、彼が残した音楽が数少ないことや、後年になって評価されたことを知った。

<ロバート・ジョンソン〜満たされない野望>ボブ


クロスロード伝説も知ってはいたが、それは浦沢直樹の漫画「20世紀少年」のパロディ化されたシーンからである。
それがロバート・ジョンソンの伝説に基づいていることは知らなかった。

いざロバート・ジョンソン本人の曲を聴いてみると、レコードノイズの中から響く張り上げるようなブルージーな声は、とても魅力的に聴こえた。
彼のハイトーンな声や節回しは、今まで触れてきたブルースのお手本のようであった。


よくよく調べると、エリック・クラプトンやキース・リチャーズなど、ロバート・ジョンソンに影響を受けていたアーティストにも、僕は知らず知らずに触れていたようだ。
なるほど桑田佳祐が参考するだけある・・・。

しかし桑田佳祐は「ヨシ子さん」において、ただ参考にしただけではないように思える。
自らを「平成のロバート・ジョンソン」と名乗ることによって、ロバート・ジョンソンを平成の音楽に召喚したのではないか。

「ヨシ子さん」の歌詞には、様々なモチーフが登場する。
HIP HOP、「サタデーナイト・フィーバー」、EDM、ボブ・ディランの「くよくよするなよ」、サブスクリプション、演歌、デビッド・ボウイの「ブラック・スター」、自分の「いとしのエリー」からは“笑ってもっとベイビー”というフレーズ・・・・。

桑田佳祐に馴染みのないものとあるもの、つまり僕には馴染みのあるものとないものが、歌詞の随所に並べられている。
それは「EDMってなんだい」だとか、「やっぱり演歌はええな」のように、新旧の文化に対する雑感のような言葉だ。

しかしこの歌は別に、あの頃は良かっただとかと懐古しているわけではない。
過去の文化と現代の文化を並べて、2016年にひとつの曲の中で歌うことによって、あらゆる文化的なものを時代と関係なく同じ土俵に立たせている。

その際たる例が「平成のロバート・ジョンソン」という、自分で付けたキャッチフレーズなのだろう。
自らをロバート・ジョンソンを同じ土俵に立たせることによって、桑田佳祐は21世紀の日本に、20世紀のアメリカを生きてブルースを生み出したレジェンドを復活させた。

そのことによって2010年代を生きる僕が、ロバート・ジョンソンを聴くという出会いが発生したのだ。
もしかしたら60歳の桑田佳祐リスナーが、「ヨシ子さん」をきっかけにEDMを聴き出すなんてことがあるかもしれない。



これまでも桑田佳祐は様々な形で、現代と過去をつなぎ合わせてきた。
彼が定期的に行っている「Act Against Aidsライヴ」もそうだ。
近年では2013年の「ひとり紅白歌合戦」で、ドリフターズからいきものがかりまでをカバーしたことも記憶に新しい。

あの企画も過去の名曲たちを現代のポップスと同じ土俵に立たせて、再評価させたものだといえるだろう。

「声に出して歌いたい日本文学」もやはり、過去の文豪たちの小説や詩の一節に現代のメロディをつけることによって、文豪の言葉とロックの歌詞を同じ舞台に立たせている。

桑田佳祐はこのように文化の橋渡し役であり続けている。

その最新版である「ヨシ子さん」ではついに、自分が生きた平成と昭和を繋いでしまったのだ。
桑田佳祐が次にどんなものを現代に登場させるのか、平成生まれの僕は楽しみで仕方がない。

(文・吉田ボブ)














桑田佳祐『ヨシ子さん』
ビクターエンタテインメント

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