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「憧れのあいつ」の子供が音楽を届けてくれた。躍動する2世ミュージシャン達を見守ろう

2016.08.01

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ロックの黄金時代も、むかしむかしのおはなし。
1960年代、70年代に華々しく活躍していた英米のロック・ミュージシャンは皆、おじいちゃん、おばあちゃんになりました。2016年にはデヴィッド・ボウイやキース・エマーソン、グレン・フライなど、歴史を作った人物の訃報が相次いで届けられています。
しかし、その一方でうれしい出来事も。次世代となる彼らの子供たちが、親の跡を追いかけて続々と音楽界に登場しているのです。そこで今回は、今年飛躍が期待される注目の2世ミュージシャンを3人ご紹介しようと思います。

① エリオット・サムナー

まずはスティングの娘、エリオット・サムナー。
スティングのコラムはこちらへどうぞ

母は女優のトゥルーディ・スタイラーです。1990年生まれ。2010年には(愛称である)ココを名乗り、アイ・ブレイム・ココというバンドを組んでデビュー。そこではレゲエを取り入れたロック、ポップスを演奏していました。その後、2014年にエリオット・サムナーと名義を変え、ソロとして再デビュー。今年2月に初のアルバムをリリースしています。
鼻筋の通った顔立ちもそっくりですが、ドスの効いた低い歌声はまさしくスティングの血を感じさせるもの。音楽性もシンセサイザーを中心としたシリアスなロック・サウンドで、浮遊感のあるメロディと鬱屈したダークな雰囲気にはニューウェイヴ(ポリス)の面影があります。

After Dark



目線を合わせず、唇を尖らせて歌う彼女の姿のカッコよいこと。本作発表を機にソロ・ミュージシャンとして、いよいよ精力的に動き出している彼女。父の道程を追いかけて、いつの日か、ロック・スターとして成長する姿が待ち遠しいです。

Eliot Sumner『information』
Universal


② A.J.クロウチ

若くして飛行機事故で亡くなった父ジム・クロウチ。
ジム・クロウチのコラムはこちらへ

その時、息子A.J.クロウチはまだ2歳(1971年生まれ)だったそうです。その後4歳で脳腫瘍により盲目になりました。しかしながら10歳の頃、片目は奇跡的に回復。この頃にスティーヴィー・ワンダーやレイ・チャールズの音楽に出会い、それがピアノを弾き始めるきっかけとなりました。
1993年にジョン・サイモン、Tボーン・バーネットの二人のプロデューサーを擁したセルフタイトル作でデビュー。伝説的な父を持ち、且つ困難な人生にも屈しなかった彼には多くのミュージシャンが協力を申し出ました。地道な音楽活動を続けており、2016年までに9枚のアルバムを発表しています。

Coraline


彼の音楽はアメリカン・ルーツ・ミュージックに加え、ポール・マッカートニーやXTCなど、往年のブリティッシュ・ロックからの影響も取り込んだもの。ピアノ弾き語りによるフォーキーなポップ・ミュージックです。ジム・クロウチとは印象が異なるものの、温かみのあるメロディに共通するものを感じます。
既にベテランと言っていいA.J.クロウチは、2016年2月に初来日を実現。これからの活躍が楽しみなシンガー・ソングライターの一人です。

A.J. Croce『Cage of Muses』
Seedling


③ テディ・トンプソン

英フォークの重要人物であるリチャード・トンプソン。彼は70年代から80年代にかけて、当時妻であったリンダとデュオを組み、6枚のアルバムを発表しました。



しかしながら、その後離婚。テディ・トンプソンは、両親が仲睦まじくデュオを組んでいた1976年に生まれた息子です。
2000年にデビューして以来、これまで5枚のソロ・アルバムを発表。アメリカン・ポップスをイメージさせるおおらかなメロディと爽やかな歌声、スマートなギター・プレイ。あまり父親を連想させない個性を持つテディ。
しかし家族に対する愛情は強く、2014年に「バラバラになってしまった家族をもう一度一つにまとめたい。」との思いから、トンプソン家名義での一家勢ぞろいアルバム『Family』を制作しています。
そして2016年4月。テディはアメリカの女性シンガー、ケリー・ジョーンズとデュオを組んだ新作『Little Windows』を発表。

Never Knew You Loved Me Too


本作は「人の心の移り気」をテーマとしています。それを、両親が組んでいた男女デュオでやる心境や如何に。ノスタルジックなフォーク・ロック・サウンドが、70年代を彷彿とさせるのもポイント。恋愛のほろ苦さを超えた達観。そんな風に感じさせる素晴らしいアルバムとなっています。

Teddy Thompson『Little Windows』
Cooking Vinyl


(選曲・文/旧一呉太良)

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