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ミュージックソムリエ

生まれ変わった、ゴジラの音

2016.08.29

 映画「シン・ゴジラ」が大ヒットを続けている。庵野秀明によって12年ぶりにリニューアルされたゴジラは、1950年代に初めてゴジラを観た人々と同じぐらいの衝撃を僕たちにも与えた。
 個人的には小学校1年生の時に初代ゴジラシリーズが終わってから12年、昔より高い熱量でゴジラを語る日が来るとは思わなかった。

 「シン・ゴジラ」はエンターテインメント作品としても楽しめる上に、震災を経験した日本人に対しても強烈なメッセージを発信している。
 本作ではゴジラを容赦なく街を破壊し尽くす災害のような存在として描いている。その圧倒的な脅威に対して「想定外」と慌てふためきながら後手後手の対応しかできない政府や、絶望の中で必死にゴジラと戦おうとする人々の葛藤を中心に物語が進んで行く。
 その物語を包むのは圧倒的なリアリティと、そこから生まれてくる不安感である。ゴジラ登場したことによって起こる津波や街が瓦礫となる様子は我々の中にある震災の記憶を思い起こさせる。また、人知を超えた存在であるゴジラに対してなすすべもない絶望感は原発事故後の予測できない状況に不安を抱いたかつての心境と重なるのだ。

 この映画のエンターテインメント性やメッセージ性を表現するのに一役買っているのが鷺巣詩郎の手がける劇伴である。庵野監督と共に「エヴァンゲリオン」シリーズなどの音楽を手がけた鷺巣の作る音楽は、今までゴジラシリーズの音楽を手がけた伊福部昭に敬意を払いつつ現代風にアップデートされたものになっているのだ。
 ゴジラが初めてその姿を現わすシーンで荘厳なオーケストラにクワイヤーが重なる音楽「Persecution of the Masses」を使い、ゴジラという存在の得体の知れなさや巨大さというものを聴覚的に表している。



 また映画序盤にゴジラが去った後の東京を映し出すシーンではモダンジャズ「Early morning from Tokyo」が使われている。軽快なこの曲によって脅威が去った後の危機感のない町の空気感を表し、観客に対してはいつ再びゴジラがやって来るのかという恐怖感を与える。



 鷺巣詩郎の作曲したものに加え、様々な作品の劇伴からの借用も見られる。テーマ曲は日本人なら誰でも知っている伊福部昭の「ゴジラのテーマ」を前シリーズから引き続き使用して、他にも様々なゴジラシリーズ作品からも音楽を拝借している。ゴジラとの戦闘シーンを始め多くのシーンで使用されているのは鷺巣詩郎の代表作である「エヴァンゲリオン」の劇伴へのセルフオマージュ「EM20」だ。またゴジラと同じく伊福部氏が音楽を手掛けた国産SF映画「宇宙大戦争」のテーマが使用されるなど、新旧様々な作品の要素を取り入れた「シン・ゴジラ」らしい選曲になっている。



 この「シン・ゴジラ」に欠かせない劇伴を作った、鷺巣詩郎とはどのような人物なのか。調べてみると様々な顔が浮かび上がってくる。音楽の仕事を始めたのは、20歳ほどの時だそうだ。1970年代後半、都内のスタジオを駆けずり回りながら腕を磨く毎日だったという。
 そして80年代以降頭角を現し、卓越したセンスと磨き上げた実力で様々な舞台で活躍をする。アイドル歌謡やJ-POPのストリングスのアレンジ、葉加瀬太郎の所属していたクライズラー&カンパニーの発掘とプロデュース、国内外の映画やアニメの音楽の作曲、「笑っていいとも!」のBGM制作、成し遂げてきた仕事は数知れない。
 また彼の父は漫画家のうしおそうじ(鷺巣富雄)のである。彼が創設したピー・プロダクションは円谷プロや東宝、東映と鎬を削り特撮の黎明期を支え、また国産アニメ制作にも力を入れていた会社だ。鷺巣詩郎はずっと特撮とアニメーションに情熱を注ぐ父の姿を見てきたのであろう。父の死後、彼はピー・プロダクションの社長に就任し仕事を受け継いだ。

 本人もまさか父のライバルであった東宝の特撮「ゴジラ」の音楽をやるとは夢にも思わなかったであろう。
 ともあれ、経験に裏打ちされた実力と特撮やアニメーションへの情熱で、庵野秀明と共に数々の名作を作り上げてきた鷺巣詩郎。彼にとって「シン・ゴジラ」の劇伴は一つの集大成なのかもしれない。

(文・吉田ボブ)



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