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ジェームス・ブラウンと公民権運動②〜政治と人権運動に翻弄されたジェームス・ブラウンがザイール’74で放つ「Say it loud – I’m black and I’m proud」

2023.12.25

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キング牧師が暗殺された後の1960年代終わり頃は、新たな武装組織が出てくるなどして、放火や略奪などの暴動がまだまだ頻繁に起こっていた。

前回のコラム
ジェームス・ブラウンと公民権運動①「I Got You (I Feel Good)」〜ジェームス・ブラウンがやがて政治に巻き込まれるまで


キング牧師が暗殺された後の1960年代終わり頃は、新たな武装組織が出てくるなどして、放火や略奪などの暴動がまだまだ頻繁に起こっていた。

その中で、ジェームス・ブラウンはストレートに撫で付けていた髪を黒人特有のアフロ・ヘアのスタイルにして、テレビやラジオで積極的に発言を行うようになっていった。
また、1968年に一つめのラジオ局を買収した時のことを自伝でこのように語っている。

俺は公民権じゃなく、人権を信じていた。世界中あらゆるところに住む全ての人間の“人権”を。そして、俺は国を愛していた。だが、仲間の黒人たちを代表して語りたいことがあった。アメリカを愛すればこそだった。俺は黒人にはプライドと経済力、そして何よりも、教育が必要だと思った。

そうして1968年にリリースされた「America is my home」では、「自分は靴磨きだったけど、今では大統領と握手するまでになった アメリカはいい国だ」と、彼自身のことを歌って示したのだ。しかしファンには彼の伝えたかったことが理解されなかった。


この歌は、同胞からは黒人の精神を売り渡すもので、白人に媚びへつらうアンクル・トムだとこき下ろされ、多くの黒人ファンを失うことになるのだった。

そして、同年「Say it loud – I’m black and I’m proud」がリリースされた。
この歌は世間にインパクトを与えた。当時はまだ「Negro」であり「colored」であった黒人たちに「Black」であることを誇りに思えという歌は衝撃だった。

しかし、この歌は黒人には強く支持されたが、今度は反対に多くの白人や他人種のファンを失うこととなった。


これらの歌は、ジェームス・ブラウン自身がファンへの影響を意識したのか、ライブで演奏されることは少なかった。

映画『ミスター・ダイナマイト ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』では、大統領選挙で共和党のニクソン支持を表明したことで、レコードを焼かれるなど多くのファンを失った当時の映像も映し出された。そして、“キング牧師の誕生日を祝日にすること”をニクソンに直接働きかけたジェームス・ブラウンが、結局その人気と発言力を利用されただけで裏切られるという結末も描かれていた。

そのように政治と人権運動に翻弄され、多くのファンを失ったかのように見えたジェームス・ブラウンだったが、音楽はますますファンク色を強め、1970年代に入った頃には、“ゴッドファーザー・オヴ・ソウル”と呼ばれるまでになっていた。

そして1974年9月20〜22日の3日間、アフリカのザイール(現・コンゴ民主共和国)で後に“キンシャサの奇跡”と呼ばれるモハメッド・アリ対ジョージ・フォアマンの一戦に先がけて、アメリカのブラック・ミュージシャンと現地のブラック・ミュージシャンを集めた一大イベント「ザイール ’74」が行われた。

ザ・スピナーズ、B.B.キング、ビル・ウィザース、ザ・クルセイダーズ、アフリカからはミリアム・マケバ等が出演し、そしてなんといってもこのコンサートの最大の目玉がジェームス・ブラウンだった。

アメリカで生まれ育った黒人ミュージシャンがルーツに帰り、そしてアフリカで黒人解放運動のために闘い続けてきたミュージシャンと同じステージに立つという歴史的なイベントは、のちにドキュメンタリー映画『ソウル・パワー』として2010年に日本でも公開された。

soul_power

ここでジェームス・ブラウンは、しばらくライブで封印していた「Say it loud – I’m black and I’m proud」を声高に歌ったのだ。ジェームス・ブラウンが「Say it loud!」と叫ぶと、観客が「I’m black and I’m proud!」と答えるコール&レスポンスが会場を熱気に包んでいく。この歌は映画の最後に流れ、とても象徴的であった。

大声で言え!
黒人であることを誇りに思っている!


ジェームス・ブラウンによって人権運動とエンターテイメントを繋いだ歌が、まさに生きた瞬間なのだった。


(映画『ソウル・パワー』からジェームス・ブラウンのライブ映像。当時の大ヒット曲「The Payback」に始まり「Cold Sweat」や、映画のタイトルにもなった「Soul Power」などが演奏される。「Say it loud 〜」は12分を過ぎたあたりから。)








参考文献:「俺がJBだ!ジェームス・ブラウン自叙伝」ジェームズ・ブラウン、ブルース・タッカー著、山形浩生、渡辺佐智江、クイッグリー裕子訳 文春文庫
wakpoetics japan 09号「SOUL POWER」吉岡正晴著


こちらのコラムもご覧ください
僕たちはこの曲を歌うたびにその日を祝福していたんだーキング牧師の誕生日を祝日に

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