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ルパン三世のテーマ〜ジャズ・メン大野雄二のライフ・ワーク

2016.10.17

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ジャズは聴かないなぁという人も、大野雄二という名前を聞いたことがないという人も、「ルパン三世のテーマ」というと口ずさめる人は多いのではないだろうか。

漫画家モンキー・パンチ原作のテレビアニメ『ルパン三世』の、1977年から始まった第2シリーズから現在のシリーズに至るまでの音楽を、ずっと担当しているのがジャズ・ピアニストでありコンポーザーでもある大野雄二なのだ。

1941年に静岡県の熱海で生まれた大野雄二は、10代の頃にラジオから流れてくる洋楽からジャズに興味を持ち、慶應高校に入ってからはジャズ好きの仲間と出会い、ジャズ喫茶に入り浸るようになる。

そして大学に進むとバンドに加入、子供の頃から姉とともにピアノを習っていたこともあり、独学でジャズを学びながらキャバレーでピアニストとして演奏をしたり、また自身で作曲もするようになる。
大学在学中から宮沢昭や藤家虹二のバンドに加入し、プロのジャズ・ピアニストとして活動を始め、当時ジャズ・ドラマーとして名を馳せていた白木秀雄のバンドにも3年ほど所属するなどしていた。

その後、自らのトリオを結成して精力的にライブ活動を行っていた1960年代後半、アメリカでもまだまだジャズが熱かった時代で、日本にも外国のジャズ・ミュージシャンが来日公演を行うようになっていった。やがて大野らも来日するミュージシャンと交流する機会を得るようになる。そうして彼らと一緒に演奏する中で、本場アメリカのジャズとの歴然とした差を痛感するのだった。

そんな時、大野にCMの仕事の話が舞い込む。
注文を受けてから書くという、ジャズとは全く違う世界を面白いと感じ、大野はCM音楽の制作にハマっていく。また、いろいろなCMの要請に応えられるようにと、ジャズ以外の音楽を聴かなければならなくなった。そのために青山のパイドパイパー・ハウスや、原宿のメロディー・ハウスなどのレコード屋に毎日のように通い、ソウル・ミュージックなどを中心に毎月4〜50枚のレコードを買っていたという。
中でも1971年にリアルタイムで聴いたマーヴィン・ゲイの『What’s Going On』には、こんなジャズっぽいソウルもあるのかと、衝撃を受けたと語っている。

そして、ついにテレビ番組『ルパン三世』の話がやってくる。

ジャズから始まって、CMの仕事でポピュラーな音楽にも目覚め、それらの集大成がこの『ルパン三世』の音楽スタイルだと語る大野雄二は、この仕事をまさに“天職”だと語る。
それまでアニメの音楽というのは子供向けだったけれど、この『ルパン三世』では大人向けのものにしようと、子供がちょっと背伸びして聴きたくなるようなものを目指して作ったのだそうだ。

1977年に始まったシリーズのオープニング曲「ルパン三世のテーマ’78」は、誰もが耳にしたことのある印象的な楽曲だが、ジャズやフュージョン、ソウルなど様々な音楽を取り込みながら、スピード感にあふれ、今も古さを感じさせないカッコいいナンバーだ。

●ルパン三世のテーマ’78(TV第2シリーズ オープニング映像より)



ただ、シリーズがこんなにも長く続くとは思っていなかったという大野の、今となってはライフ・ワークとも呼べる『ルパン三世』は、映画やテレビアニメのサウンドトラックのみならず、大野自身のジャズ的アプローチで示したアルバムも多くリリースしている。

2007年には、「ルパン三世のテーマ」が生まれて30周年を記念したコンサートも行われた。

●ルパン三世のテーマ’78(30周年コンサートより)Yuji Ohno & Lupintic Sixteen


「ルパン三世のテーマ’80」は、ビブラフォンをフィーチャーした、よりジャズテイストあふれるアレンジであったが、これも30周年記念コンサートで演奏された。

●ルパン三世のテーマ’80(30周年コンサートより)


もちろんピアニストである大野自身によるソロでも聴かせてくれる。

●ルパン三世のテーマ 大野雄二ソロ・ピアノ


このようにして大野雄二は、今に至るまで様々なアレンジで「ルパン三世のテーマ」を聴かせてくれる。この自由な発想による楽しみ方こそが、ジャズの醍醐味でもあるのだ。
2009年には、ジャズは難しく敷居が高いものではなく、いかに「格好よくて、楽しい」ものかを表現するために、大野雄二自らLUPINTICレーベルを立ち上げた。

今では他のミュージシャンにもちろんカヴァーされたり、スポーツの応援歌にも使われるなど、もはや「ルパン三世のテーマ」は、日本のジャズ・スタンダードと呼んでもいいほど幅広い世代に浸透している。

今までジャズを聴く機会がなかった人も、『ルパン三世』をきっかけにジャズを聴き始めてみるのもいいかもしれない。
大野雄二の公式サイトのディスコグラフィーでは、様々な『ルパン三世』のジャズ・アルバムが紹介されている。ジャケット・デザインを飾るのはモンキー・パンチによるカッコいいイラストだ。お気に入りのデザインを見つけてジャケ買いをしてみるというのも楽しい。一部のマニアのコレクターズ・アイテムだけにとどめておくのは、とてももったいない話なのだ。

大野雄二公式サイト


大野雄二『LUPIN THE BEST “JAZZ”』
バップ


参考文献:waxpoetics japan 03号「大野雄二インタビュー」より

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