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ミュージックソムリエ

さらにドーンと行く男たち 〜エレファントカシマシ〜

2017.04.03

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今年30周年を迎えたエレファントカシマシ。他のミュージシャンとは一線を画すような活動を続けながらも、日本を代表するロックバンドであり続けているバンドである。

僕がエレファントカシマシを知った頃には彼らはすでに20年以上のキャリアを積み重ねていて名前もなんとなく、いつの間にか知っていた。テレビの車などのCMで彼らの歌は頻繁に流れており、その声と不思議なバンド名が印象に残っていた。
エレファントカシマシが演奏する姿を初めて観たのは2011年の事だった。震災後の復興支援の番組に彼らが出演していた。そこで演奏していたのが「悲しみの果て」である。

多くのアーティストが優しいバラードを歌う中、ロックなサウンドでシャウトするヴォーカルの宮本浩次の姿はエネルギーに満ち溢れていた。言葉だけを見ると投げやりに思えるような歌詞でも、力強い歌声はポジティブなメッセージを放っているように感じた。それがエレファントカシマシのことを深く知るきっかけになったのである。

彼らは1981年に中学校の同級生を中心に結成された。当時はRCサクセションなどのコピーバンドであったが、次第に宮本がオリジナル曲を作るようになり小さなライヴハウスで評判になっていく。彼らが20歳のときオーディションに入賞して音楽事務所「双啓舎」と契約し、そこから2年後の1988年にメジャーデビューを果たす。
デビュー曲「デーデ」の歌詞はブルージーなサウンドと明るいメロディーとは裏腹に、厭世的な言葉が並べられたものだった。

洋楽のブルースやロック、日本のフォークソングに影響を受けた曲と宮本の印象的な高音のシャウトは、多くの人に支持を受け大物新人として注目を浴びた。早くから渋谷公会堂や日比谷野外音楽堂の公演を経験するが、そのライヴは他のアーティストとは一線を画すものであった。
客電は付けっぱなしで、観客は全員座り、ギターを弾いて歌う宮本自身もパイプ椅子に座りながら歌うというロックバンドのライヴらしからぬ雰囲気だったのである。そこで宮本は椅子から転げ落ちそうになりながら、か細い声でシャウトをし、ときに手拍子をする観客に怒っていたという。
完成度の高い楽曲と美しい日本語を使った歌詞で高い評価を得る一方、彼らはどこか人を寄せ付けないような空気を纏うようになっていった。歌詞も社会とのコミュニケーションを拒否するような、内省的なものが多くなり、ヒット曲もなかなか生まれなかった。そして、デビューから6年、彼らはレコード会社の契約が打ち切られ、さらには所属事務所が破産してしまう。

大きな苦難を経験した彼らだが、地道にライヴ活動を続けて歩みを止めることはなかった。ライヴハウスでの活動において、宮本は初めてファンに対する感謝が生まれたという。
それから2年を経て発表されたのが「悲しみの果て」である。今までのような投げやりな言葉たちとは裏腹に、バンドの演奏や宮本浩次の声は力強く、ポジティブなエネルギーを発している。今までの人を寄せ付けない空気とは明らかに違う、どこか他の人に対して開かれたようなこの曲は、彼らの代表曲になった。

エレファントカシマシは再び脚光をあびるようになり、今まで以上に多くの人に知られていく。大ヒット曲「今宵の月のように」を収録したアルバム『ココロに花を』は今までと比べ物にならないほど好セールスを記録し、彼らは一気に日本語ロックのトップバンドとなったのである。

そこから15年以上、挑戦し続けながら日本のロックの先頭を走り続けている。途中メンバーの病気やレコード会社の移籍を経験しながらも、宮本の力強い声と言葉、そして演奏で観客のみならず自らを鼓舞するかのように音楽を鳴らし続けた。
その結果、日比谷野外音楽堂での連続公演年数は20年を超え、日本最大のロックフェスティバル「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」のメインステージに15回も出場しているのである。

2015年末にリリースされた22枚目のアルバム『RAINBOW』は、宮本の耳の病気による活動休止を経て制作された。彼が休止中に感じたことが、命や人生を肯定するような言葉になり、これまでにないほどポジティブなエネルギーに満ち溢れたアルバムになった。
タイトル曲になった「RAINBOW」はかつての「悲しみの果て」のように力強いメッセージに満ちた楽曲になっている。

2017年に行われた、エレファントカシマシの30周年記念ライヴのタイトルには「さらにドーンと行くぜ!」というサブタイトルが付けられていた。その言葉の通り、彼らにしか歌えないような歌をこれからも鳴らし続けていくのであろう。

 
エレファントカシマシ『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』
Universal

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