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PUNPEEが創り上げた一本の映画のようなCDアルバム 〜『MODERN TIMES』〜

2017.11.27

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「アルバムって覚えてる?」

これは生前のプリンスが、2015年のグラミー最優秀アルバム賞のプレゼンターとして放った言葉だ。

実際2015年頃を境にして、ストリーミングや配信、YouTubeなどで音楽を聴く人の比重が大きくが増えた。音楽をCDという”モノ”として聴くことや、アルバム単位で聴くという文化が廃れつつある。
しかしそのような時代だからこそ、「CDアルバムで音楽を聴く意味」を追求し続けるアーティストもいる。

その一人がPUNPEE、2002年から活動を始めて15年のキャリアを誇る、日本のラッパーである。
彼はアルバムというものに新たな意味を付与するような作品、『MODREN TIMES』を2017年に作り上げた。

音楽好きな家庭に生まれたPUNPEEは、幼いころから父親の影響でビートルズや山下達朗のレコードを聞いて育ったという。彼自身も中学生になって、音楽にのめり込んだ。
転機は高校生の時だった。寝坊をして軽音楽部で結成したバンドをクビになり、自分一人でビートとラップを作れるヒップホップアーティストになろうと決意する。

最初の7年間は鳴かず飛ばずであったが、それでもUMBというフリースタイルラップの東京大会で優勝を果たすなど、着実に実績を積んでヒッポホップユニットPSGとしてデビューする。

ここから実力が世に認められ始めて、楽曲提供やリミックス、曽我部恵一との共作、RHYMESTERのプロデュース、TVやCMのジングルの製作などで、ソロアーティストとして徐々に注目を浴びていった。

そして2015年、加山雄三の「お嫁においで」のリメイクでヒットを飛ばし、翌年には彼の憧れであった宇多田ヒカルから声がかかり、「光」をリミックスする。
この曲は2017年1月に全米iTunesチャートで2位を記録した。
彼が満を持して発表するファースト・アルバムに、注目が集まるのは必然だった。
そんな期待とプレッシャーのなか、『MODERN TIMES』は2017年10月にリリースされた。
それはPUNPEEが幼い頃に聴いていたであろう、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のようなコンセプトアルバムであった。

アルバムは「2057」と名付けられた、老人による語りのトラックから始まる。今から40年後の未来、そこではヒップホップがメジャーな音楽になっているという設定だ。
そして日本のヒップホップがメジャーになりつつあった2017年、「あり金と大きすぎるアイデア」を持って作品を作った一人の男 –—PUNPEEの過去が老人になった彼自身の口によって語られていく。

その語りに続いて、「大きすぎるアイデア」が込められた多彩な楽曲が続く。
アメリカのシーンで活躍するトラックメーカーたちが作った緩やかなビートに乗せて、情けない男=PUNPEEの日常や、宇宙や未来へ憧れを抱く妄想が歌われる。

『サージェント・ペパーズ~』と同じように、それぞれの楽曲は独立した魅力を持つ。しかし、それらは一本の映画の中にあるワンシーンのようでもあり、16曲を通して聴くことで一人の男の物語が浮かびあがってくる。

伝記映画のようなコンセプトは、彼が「今あえてファースト・アルバムを作る」ということに向き合い、悩んだ末に生まれたアイデアだという。
そこでヒントになったのは、音楽と同じほど熱中したSF映画やアメコミ映画だった。

「アメコミとかSF映画も好きな自分を上手く凝縮しないとダメだなって考えたんですよ。そこで、未来の自分に手を借りようと思いついたんです。未来の自分が”このアルバムはクラシックだ!”って評価してくれたらクラシックになるじゃないですか」
ミュージックマガジン11月号インタビューより

PUNPEEは自分の半生を基にした脚本を書くようにリリックを綴り、出演者たちをキャスティングするかのように、トラックメーカーや客演のラッパーを集めて作品を完成させた。
その強いこだわりは、アルバムのアートワークにも表れている。
映画『アベンジャーズ』の公式イラストを描いたアーティストが、SF映画のようなジャケットを描いた。
歌詞カードも映画の設定資料集のようなイラストとレイアウトで、CDアルバムを配信だけではなく、“モノ”として持っていて欲しいという想いが伺える。

ストリーミングやYouTubeが全盛の現在、人々は楽曲単位で音楽を聴く傾向が強く、CDアルバムは古いものになりつつある。
しかし、PUNPEEは50年前にビートルズが『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を生み出したような熱量とアイデアで、“モノ”としての価値を再発見させる『MODREN TIMES』を創り上げたのだ。

PUNPEE 『MODERN TIMES』
SUMMIT

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