ミュージックソムリエ

心を静める音楽~カルロス・アギーレとbar buenos aires

2018.01.08

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心を静める音楽が、少し前からひそやかにブームである。
1990年代後半からのCD不況以降、経済的にも先行きの見えなかった2000年代、街中ではダンスビートばかりが流れ、それらは気持ちを昂らせる一方で、心身を疲弊させていった。
そんな時代の流れに逆らうかのように2009年、東京の西荻窪に「穏やかな音楽を集める」というコンセプトのCDショップ「雨と休日」がオープンする。そして2010年には、大型音楽ショップのHMVで「心を静める音楽」をコンセプトにした企画「クワイエット・コーナー」が始まる。それは、「素晴らしきメランコリーの世界」という伝説的コーナーを擁していたHMV渋谷店が閉店したすぐ後のことだった。
両者の動きは、しばらく音楽から距離を置いていた人々の賛同をも少しずつ集め、「心を穏やかにする、心を静める音楽」への興味は、今もなお静かながら大きな広がりを見せているのだ。

2009年頃、「素晴らしきメランコリーの世界」で紹介されていた、アルゼンチンの音楽家、カルロス・アギーレの音楽に強く魅了された人々がいた。
「素晴らしきメランコリーの世界」発足に携わった元HMV渋谷店のマネージャーの河野洋志、同じくHMVジャズ部門バイヤーの山本勇樹、そして、カフェ・アプレ・ミディで有名な橋本徹が手がけたフリーペーパー『サバービア』のプロダクツや雑誌『relax』などにも音楽コラムを執筆していた音楽文筆家の吉本宏との3人で、2010年1月「カルロス・アギーレの描く音像風景と共鳴する、世界の美しい音楽を聴く」選曲会「bar buenos aires」をスタートする。

カルロス・アギーレは、1965年アルゼンチン生まれの詩人で歌手であり、ピアニストでコンポーザーでもある。パラナ河の近くに住まい、周囲の美しい自然からインスピレーションを受けながら、詩や音楽を創作している。アルゼンチンの民族音楽フォルクローレを愛し継承しながら、クラシックやジャズ、海外のアーティストではキース・ジャレットやパット・メセニー&ライル・メイズ、ブラジルの巨匠エグベルト・ジスモンチなどから影響を受けていると自身でも語っている。

目を閉じて彼の奏でる音楽に耳を傾けていると、まだ見たこともないパラナ河のほとりの美しい自然の風景が、鮮やかに脳裏に浮かぶようだ。静かで、美しく、心が洗われるような音楽なのだ。

bar buenos airesのスタートから1ヶ月後の2010年2月、河野はアルゼンチンへ行くこととなった。
カルロス・アギーレのアルバムの国内盤をリリースしたいと願っていたレコード会社、インパートメントの稲葉昌太から手紙を託された河野は、偶然にもブエノスアイレスで公演中していたアギーレと、大使館などの協力もあって、接点を持つことに成功する。
アギーレに熱い想いを伝えると、日本では最も入手しにくかった2000年のカルロス・アギーレ・グルーポによるデビュー・アルバム『クレーマ』の日本盤のリリースを約束してくれ、日本での公演をぜひ実現したいとも言ってくれた。

7月、オリジナル盤と同じカルロス・アギーレの友人のイラストレーターによる1枚1枚手描きの水彩画が、切り取られた小窓から覗くジャケット・アートワークも忠実に再現された国内盤がリリースされた。



そして10月には初の来日公演も実現した。
HMVで「クワイエット・コーナー」をスタートさせた山本勇樹は、そのフリーペーパーの第一号に、カルロス・アギーレを特集した。

初来日公演でアギーレは、「河野さんが遠く日本から会いに来てくれなかったら、私はここにいなかったし、素晴らしい人との繋がりも生まれなかった」と語り、新曲「Hiroshi」を披露した。
この曲は、bar buenos airesの選曲チームから生まれたレーベルにとって初のコンピレーション・アルバム『バー・ブエノスアイレス~カルロス・アギーレに捧ぐ』にも収録された。
また、2017年12月にリリースされたカルロス・アギーレのトリオとしてのオリジナル・ニュー・アルバム『カルマ』にも新たに録音したものが収録されている。





2010年、カルロス・アギーレの音楽に魅了された男たちの情熱によって、私たちの手の届くところへ、彼の美しい音楽を届けてくれた。
そして、さらにカルロス・アギーレから繋がる静かで美しい音楽の数々が、bar buenos airesによって広められていく。
それらは、心を静める美しい音楽に共鳴する様々な分野の人々も巻き込んで、その輪を少しずつ大きく広げているのだ。
最後にカルロス・アギーレが語った言葉を紹介したい。

音楽は人と人との出会いの可能性を広げるものだ

初来日から約7年ぶりとなる来日公演が1月に予定されている。
ぜひ、静かで美しい彼の音楽を体験してみたい。


カルロス・アギーレ・ジャパン・ツアー2018
『ラ・ムジカ・デル・アグア(水辺の音楽)』


1月12日(金) 東京 スクエア荏原ひらつかホール
1月13日(土) 長野 八ヶ岳高原音楽堂
1月15日(月) 福岡 Rooms
1月16日(火) 岡山 蔭涼寺
1月17日(水) 米子 ゆう&えん Qホール
1月18日(木) 大阪 天満教会
1月19日(金) 姫路 HUMMOCK Cafe
1月21日(日) 山形 文翔館 議場ホール

詳細はコチラ

bar buenos aires 公式サイト
http://barbuenosaires.tumblr.com


「Los tres deseos de siempre(永遠の三つの願い)」



「Hiroshi」


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