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ジョン・レノンやマイケル・ジャクソンのような「救いの音楽」を作り出した ラッパー 〜ロジック「1-800-273-8255」〜

2018.06.25

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かつてジョン・レノンは「Happy Xmas(War Is Over)」で「戦争は終わる 君が望めば」と歌い、マイケル・ジャクソンは「We Are The World」で世界の子供達の幸福を願った。

そのメッセージはメロディとともに、発表されてから何十年経った現代にも届いている。
音楽には言葉にすれば当たり前のことと思えてしまうことでも、深く心に浸透させられるような力がある。

そんな音楽の力でメッセージを発し、多くの人々の救いになったミュージシャンの一人がロジックだ。


ロジックは1990年にメリーランド州で生まれた。フランク・シナトラが好きな母親とプリンスが好きなミュージシャンの父親のもとで育ち、幼い頃から音楽に親しんでいた。
ところが父親がコカイン中毒に苦しんでいたことを理由に、ロジックは生まれて間もなくして親元を離れて暮らすことになる。

彼の転機は13歳のときだ。クエンティン・タランティーノの映画『キル・ビル』で流れていたビートが頭から離れなくなったという。
そうして行き着いたのが、映画のサウンドトラックを提供していたRZAが所属するヒップホップグループ、ウータン・クランだ。

ヒップホップにのめり込み、自ら歌詞を書くようになった彼は「サイコロジカル」という名前でステージに上がるようになった。
そして19歳のときに発表した『Logic: The Mixtape』が話題を呼び、有名ミュージシャンたちのオープニングアクトに抜擢されるようになる。

ビートを乗りこなし、流れるようなラップをする姿は、ヒップホップファンの間で徐々に話題になり、23歳にして名門レーベルであるデフ・ジャムと契約する。



2009年から毎年作品制作をしてきたロジックだが、そのハイペースな音源制作やデビュー後の年200本近いライヴは、彼の心を蝕んでいった。
やがてステージ上で極度の不安を感じるようになり、彼は人前に立てないほどに追い込まれてしまう。
ロジックはうつと診断され、活動休止を余儀なくされた。

うつの症状と自殺願望に日々苛まれていた彼を救ったのは、家族や一緒に活動してきたメンバー、そしてなによりも彼の音楽を愛していたファンであった。


1年の休養期間を経て、うつ症状を脱した彼は「人のための音楽を作りたい」という衝動に駆られる。
ロジックは「すべての人種、性別、性格の人のためのアルバム」というコンセプトを軸に2017年、『Everybody』というアルバムの制作に乗り出した。

その中に一曲、自分と同じように鬱や不安に悩む人たちのための歌「1-800-273-8255」を忍ばせた。
このタイトルは、アメリカの自殺予防ダイヤルから取られたものであった。

ひっそりと生きてきた
そうやって時間を過ごしてきたんだ
頭がどうにかしちゃった気分さ
この人生が自分のものじゃないような気がするんだ
結局、俺は生きていたいんだ




美しいピアノの旋律のループに、彼の経験を綴った素直な言葉を乗せたシンプルな楽曲だ。
それでいてポップソングとして美しく、ロジックの声と言葉からは彼の体験が滲み出たような切実さが伝わってくる。
まさに、聴く者一人一人に語りかけるような歌が完成したのだ。

アルバムからシングルカットされた「1-800-273-8255」はラジオのオンエアーやMTV Music Video Awardのパフォーマンスをきっかけに、チャートを急上昇していった。



そしてロジックの想いはかつての彼と同じようにうつや不安の症状に悩む人々に届き、アメリカの自殺予防ダイヤルへかかってくる電話がこの曲のヒット以降50%上昇したという。

ロジックが人のために作った音楽は、確かに多くの人に届いていた。
2018年に行われた第60回グラミー賞では、「1-800-273-8255」が優秀楽曲賞を受賞。

授賞式の最後に登場した彼は、曲の最後にメッセージを放った。



弱き者のために立ち上がって戦う この世界に暴かれない悪なんてない
文化や多様性はこの美しい国には何千年も残っているんだ
あなたたちはちっぽけな存在じゃない 美しいんだ


彼は先人たちのように音楽の力を信じているからこそ、人々の心に届くような「救いの音楽」を作れたのである。

(文・吉田ボブ)


logic『Everybody』
Def Jam

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