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時を超えてコラボレートした2人のポップスター 〜マイケル・ジャクソンとドレイクの「Don’t Matter To Me」〜

2018.07.16

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ポップミュージックの歴史において新たなスタンダードが生まれる時、そこには革新的なアイデアを生み出すミュージシャンの存在がある。
ロックンロールを世界に広めた「キング・オブ・ロックンロール」エルヴィス・プレスリー。
R&Bやディスコ、ロックやヒップホップを区別なく取り入れ、次々とヒット曲を生み出した「キング・オブ・ポップ」マイケル・ジャクソン。
彼らは世界中の人々に音楽を届けるだけでなく、新たなスタンダードを作り出す「スター」と呼ばれる存在になっていった。

現代においてスターとしての役割を引き受けているラッパーの一人がドレイクだ。
彼は多くの人々に受け入れられながら、新しいスタンダードを作り続けてきた。

ドレイクはブルースの街メンフィスで生まれた。
父親は黒人で母親はユダヤ人という家庭で育った彼は、5歳の時に両親が離婚し、カナダのトロントへと移住する。
他の子供たちとは異なるバックグラウンドを持ったドレイクは、疎外感を覚えながら幼少期を過ごしていた。

そんなドレイクの楽しみは、夏休みに父親の住むメンフィスへ行くことだった。
彼の父親はドラマーとして活動していた。父親の仕事現場を見学したり、メンフィスの街に繰り出しながらブルースやカントリー、ソウルなど様々な音楽に触れていたという。

しかしドレイクのキャリアの始まりは音楽ではなかった。芸能事務所にスカウトされたことをきっかけに、俳優の道へ進むことを決意したのである。
2001年よりカナダの10代向けの学園ドラマシリーズ「Degrassi:The Next Generation」に出演。若手俳優として注目を集める。

しかし彼は自らのルーツである音楽の道を諦めたわけではなかった。
20歳になったドレイクは、俳優活動の傍ら音源制作を始めインターネット上に作品をアップしていく。
転機が訪れたのは2009年。3作目の『ソー・ファー・ゴーン』が注目を集める。



この作品でドレイクが見せつけたのは、今までのヒップホップとR&Bの完全なる融合だ。
シンプルなビートの上に、美しく伸びやかな歌声と鋭いラップが同居する楽曲たちは、まさにポップスの新たなスタンダートになっていく。
また、どこか女々しく不安に満ちた内省的な歌詞も、今までのヒップホップのイメージとは大きく異なったものであった。

このアルバムはロングヒットを続け、翌年にはメジャーレーベルから『サンク・ミー・レイター』を発表。いきなり全米チャートの1位を獲得し、若きスターとして世に知られていった。

ドレイクはその後も「性別や国籍を超えた音楽を作りたい」という想いから、ジャンルの垣根を超えた楽曲を生み出し続ける。
彼の野心的な試みはリスナーに歓迎をもって受け入れられ、デビュー以来リリースしたアルバムはすべて全米チャート1位を獲得した。

圧倒的なセールスと作品の高い完成度を誇ったドレイクだが、グラミー賞の主要部門を獲得したことはなかった。
「ラッパー」というイメージが強いドレイクは、歌をメインにしたアルバムをリリースしてもラップ部門でしかノミネートされていない。
ある意味、ジャンルの隔たりをなくそうとしている彼にとって、この扱いは不満であった。

グラミー賞を前にしたインタビューでその思いを吐露しながら目標としているアーティストとして例に出したのがマイケル・ジャクソンだ。

「マイケル・ジャクソンみたいになりたい。自分が尊敬するアーティストたちみたいに僕はなりたいんだ」

マイケルのようにジャンルを超えたポップソングを作りたい。
そのドレイクの想いは2018年『スコーピオン』というアルバムで結実した。
2枚組24曲というボリュームのアルバムの中には、「Don’t Matter To Me」という曲が収録されている。



マイケルの未発表音源にドレイクがトラックとラップをつけて、現代に甦らせた前代未聞の楽曲だ。
色あせないマイケルの魅力と、ドレイクのラップと歌が混じり合ったこの曲は、時代を超えた2人のスターの共演として申し分ないものであった。

『スコーピオン』は全米チャート1位を記録し、「Don’t Matter To Me」もリスナーに愛される楽曲になっている。

かつてマイケル・ジャクソンはスターとしての役割を背負い、常にダンスや音楽で新たな道を切り開いていった。
今や彼が生み出したものは、世界のスタンダードである。

ドレイクもマイケルのように時代のスターでありながら、次の時代のスタンダードとなるポップソングを作り続けているのである。

(文・吉田ボブ)


Dracke『Scorpion』
Young Money/Cash Money Records

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