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エルヴィスの「Can’t Help Falling In Love」にロックの魂を吹き込んだHi-Standard

2018.08.13

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「キング・オブ・ロックンロール」として知られるエルヴィス・プレスリーが1961年にリリースした「Can’t Help Falling In Love」(邦題『好きにならずにはいられない』)。
18世紀のフランスで作られた「愛の喜び」を基にした美しいメロディは、エルヴィスの深みがる歌声によってバラードのスタンダードナンバーとなり、今でも歌い継がれている。



1954年にデビューしたエルヴィスは白人でありながら、黒人だけの音楽とみなされていたR&Bをカバーし、次々とヒットを放っていく。
黒人音楽だったR&Bはロックンロールと呼ばれるようになり、エルヴィスの歌とともに音楽シーンに風穴を開けて世界中に広がっていった。

兵役から帰ってきてからはバラードシンガーに転身したかのような作品が増えて、ロックスターから銀幕スターへと活躍の場が変わった。「Can’t Help Falling In Love」はその時代に吹き込まれたもので、曲はヒットしたもののロックンローラーとしての面影はすっかり失われていた。

そんなエルヴィスの「Can’t Help Falling In Love」を、ロックンロールナンバーとして復活させたのが日本のロックバンドHi-Standard(ハイ・スタンダード)、通称「ハイスタ」だ。
彼らはセックス・ピストルズやメタリカに衝撃を受けた三人の若者、難波章浩、横山健、恒岡章によって1991年に結成された。

バンドとして売れるためにはタイアップソングでヒットを飛ばし、テレビの音楽番組にも出演して、大きな会場でライヴをするというのが昔も今も定石だ。
しかし、彼らはそんな仕組みに疑問を持っていた。ギターの横山はこのように振り返る。

「ライヴハウスから出てきた先輩がテレビのインタビューで『芸能界に入ってどうですか』って聞かれてて。えっ、って思って。しかもそれに、『うーん……』とか考えていたんですよ。それで『ああ、この人は芸能界に入ってしまったんだ』って思ったのがショックで」


ハイスタはあくまでミュージシャン、そしてロックンローラーであり続けることを志向していた。



ライヴハウスで地道に活動し、熱狂的なファンを生み出したのちにも彼らはテレビに出演せず、大きな会場でライヴをすることもなかった。
そして、グリーン・デイやNOFXをはじめとした同時代に活躍していた海外のロックバンドたちと肩を並べるべく、英語で歌い海外でもライヴ活動を続けた。

それと同時に、メジャーな音楽シーンの定石を壊すような活動方法も生み出す。
自ら「PIZZA OF DEATH」というレーベルを立ち上げ、流通はメジャー・レーベルと契約することによって、アーティスト主導の音源製作体制を確立したのだ。
さらに、ライヴハウスシーンで活躍する同世代のバンドたちを集め「AIR JAM」という音楽フェスティバルを開催し大成功を収めた。
まさにロックで野心的な方法で、今までの音楽シーンのあり方に風穴を開けたのである。

そんな彼らが2000年にカバーしたのがエルヴィスの「Can’t Help Falling In Love」だ。

原曲の流麗なメロディが3人によるソリッドで荒々しい演奏やシャウトによってより際立ち、現代のロックンロールソングとして蘇った。
この曲はシングルに収められ、大ヒットを記録したことによって若いロックファンにも知られるようになる。
そして2000年以降、彼らのほぼ全部のライヴで演奏されるほどに「Can’t Help Falling In Love」は重要な曲に成長していった。
この曲を聴くだけで、彼らのロックに対する愛情とエルヴィスへの敬意が伝わってくる。



エルヴィスがロックンロールによって当時の音楽シーンを変えたように、ハイスタもパンクロックによって日本の音楽シーンを変えた。
そんなロックのDIY精神はスタイルや時代、そして国を問わず、脈々と受け継がれているのである。

(文・吉田ボブ)


Hi-STANDARD 『Love Is a Battlefield』
PiZZA OF DEATH RECORD

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