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「オリジナルって、いったい何やろうなぁ?」~木村充揮が“天使のダミ声”で歌い継ぐ歌

2018.09.03

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日本語のブルースで名を馳せた憂歌団。
デビュー当初は、日本語のブルースというオリジナリティにこだわりながらも、ライブでは英語でブルースのカヴァーなども演奏していた。
また、ブルースではないが、加山雄三の「君といつまでも」のカヴァーは初期の頃から歌っていて、ファンには人気の曲だった。



しだいにブルースばかりではなく「渚のボードウォーク」や「サマータイム・ブルース」、そしてジャズのスタンダード・ナンバー「オール・オブ・ミー」など、広いジャンルの楽曲にも日本語詞をつけてカヴァーするようになっていった。



彼らは自分たちでもオリジナル曲を作って歌っていたが、もともと憂歌団というバンドは曲を作って人に聞かせたいというタイプのバンドではなく、演奏することを楽しみたいというバンドだったと木村充揮は自伝の中で語っている。

デビュー当初は、尾関ブラザーズや沖てる夫など、憂歌団のメンバーと近しい人物が作った楽曲を中心に、演奏を心から楽しんでいた。
しかし有名になるにつれて、外部の人が書いた楽曲を歌うことが多くなり、自分たちにはしっくりこない曲も歌わなければならないことに、違和感を覚えていったという。

そうした不満なども積み重なり、憂歌団を休眠(解散ではなく休眠)したのは1998年のことだった。木村は、もっとしたいことが自分にもあるのではないかと感じ始めていた。

1994年頃からソロ活動を始めていた木村は、より自由に活動の幅を広げ、昭和初期から30年代の歌謡曲をカヴァーしたアルバム『HAYARIUTA(流行歌)』を1997年に発表、そして2007年には、近藤房之助と二人で男の応援歌ばかりを集めたカヴァーのアルバム『男唄~昭和散歩~』を発表するなど、日本の歌のカヴァーも多く手がけている。



また2011年には、ジャズや洋楽のスタンダード曲ばかりを英語のままでカヴァーしたアルバム『Moon Call』と『Daylight in Harlem』を発表した。

もちろん日本語詞をつけて洋楽のカヴァーを歌うことも続けている。
木村自身が詞をつけた「ケサラ」は、2006年に発表されたアルバム『小さな花』に収録されている。しっとり心に沁みいる楽曲だ。
(参考コラム:Che sarà・後編〜琴線に触れるイタリアのメロディー、日本人は“超訳”がお好き!?〜



ソロになってから10年ほど経ったある時、木村は「オリジナルって、いったい何やろうなぁ?」と自問したという。

「昔の曲にも立派な曲がいっぱいあるし、それを歌うこともぼくのオリジナルと違うかなぁ」

何が何でもオリジナル、と考えるのは著作権で儲けようとする音楽業界人的な考えであり、ただの歌い手である自分はそうは思わないと木村は語っている。

「いっぱいある昔の立派な曲を、おれらはいくらでも歌えるし、いくらでもプレイできるねん」

木村の“天使のダミ声”で歌われると、どんな曲でも味わい深く、心に沁み入る。彼自身も語るように、木村の声こそが究極のオリジナリティと言えるのではないだろうか。

そんな木村の声にまつわるエピソードを最後にひとつ、内田勘太郎の自伝から紹介したい。
同じ高校の同級生だった内田と木村は、毎日学校の実習室でギターを持ち寄って演奏をしていた。しかし当時は内田の方が歌っていて、木村はどうも歌うことが苦手そうだった。音楽の授業でも普通の人のキーでは合わない木村は、ぼそぼそと下で歌うか、上で歌ってすっとんきょうになるかのどちらかだったという。
しかし、ある時ふたりでエルモア・ジェームスの「ダスト・マイ・ブルーム」を演奏していた時、歌い出しがどうも内田にはうまく歌えなくて、木村に歌ってみてと言ったところ、「え~、ほんまにぃ・・・」とか言いながら歌い出したら凄かったという。その声の質や節回し、弾力と個性に驚いた内田は、その日から木村をリードヴォーカルに決定したという話だ。

今も精力的にライブ活動やイベントに出演するなどしている木村充揮。
彼の声を是非、ライブで味わってほしい。

木村充揮公式サイト
http://www.dandylion.info


引用元及び参考文献:「木村充揮自伝 憂歌団のぼく、いまのぼく」木村充揮著、K&Bパブリッシャーズ 「内田勘太郎 ブルース漂流記」内田勘太郎著、株式会社リットー・ミュージック

こちらのコラムも合わせてどうぞ
”大ヒット間違いなし!”~憂歌団の日本語のブルースが始まった

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