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「俺のスタジオに来て、机の上でラップをしていたんだ」〜大胆さと革新的な発想でチャンスを掴みとったカニエ・ウエスト〜

2018.10.15

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ヒップホップとR&Bアーティストが、全盛の音楽シーンでは、かつてロックスターの一挙手一投足に多くの音楽ファンが注目したように、ラッパーやR&Bシンガーたちの言動が大きなニュースとなる。

その中でも特に大きな話題を呼ぶのが、ラッパーのカニエ・ウエストだ。
プロジェクションマッピングでのミュージックビデオ公開、ストリミーング配信のみでの作品リリースと、彼は音楽界の常識を覆すような活動をし続けている。
2018年には自身が制作に携わった作品を、4週連続で発表した。

そんなカニエの大胆な行動と自由な発想は、長い下積み時代に原点があった。

大学講師の母親のもとに生まれたカニエは、幼い頃から転勤によって様々な地域を転々としながら育った。
そのためもあってなかなか友人ができなかったために、様々な芸術や文化に触れることで寂しさを癒していたという。

とりわけカニエの心を掴んだのは音楽、ヒップホップであった。
彼が幼少期を過ごした80年代末から90年代は、ヒップホップが隆盛に差し掛かっていた時代だ。
古い音楽をサンプリングし、新しい音楽に生まれ変わらせるというプロセスに、カニエは強い関心を抱いた。

13歳の時に音源制作を始めると、19歳の頃にはすでにトラックメーカーとして活動を始めている。
しかしなかなかヒット作を生み出せず、シカゴの美術大学に通いながら音源を作る日々が続いた。

そんなカニエに転機が訪れたのは2001年、23歳の時だった。
ヒップホップ界の大スター、JAY-Zのアルバム『The Blueprint』にプロデューサーとして参加することになったのである。
JAY-Zはカニエの作る音楽に並々ならない才能と可能性を感じ、無名ながらもプロデューサーに起用したのだ。

カニエはやっと巡ってきたチャンスを掴むべく、美術大学を中退してトラックを作り続けた。
その結果、「izzo」という楽曲が生まれた。



この曲のビートはジャクソン5の有名なヒット曲、「帰ってほしいの」を高速回転させて作られたものだった。



原曲のテイストを残しながらも、元々の曲が全くわからないほどにピッチを上げることによって、過去の名曲にまったく新しい響きをもたらした。

「izzo」が全米シングルチャートのトップ10入りを果たしたことで、トラックメイキングの巧みさと大胆さは高く評価された。
そののちにリリースされたアルバム『The Blueprint』も大ヒットを記録し、無名だったカニエはプロデューサーとして一躍注目を浴びる。

しかしカニエ自身はその現状に満足することなく、次なるチャンスを掴もうとしていた。
JAY-Zはアルバム製作中の彼の行動を、のちにこう振り返っている。

「俺のスタジオに来て、机の上に立ってラップしてた。思わず俺は『下りてもらえないかな?』って訊いたんだけど、あいつは『断る、俺がシカゴの救世主だ』って返したんだ」

彼はラッパーとしての成功も夢見ていたのである。
そしてプロデューサー業の傍ら、自らが歌うための楽曲を作っていく。

カニエは自分自身と向き合って人生経験を振り返りながら、歌詞を書き留めていった。
その結果生まれたのが、ファーストアルバム『The College Dropout』だ。
タイトルの通り、トラックメーカーとしての下積み時代から、プロデューサーに起用され大学を中退するまで、カニエの人生が全21曲を通して描かれている。

特にシングルカットされ大ヒットを飛ばした「Through The Wire」は、アルバムを象徴する一曲となった。



この楽曲は彼がレコーディング中に自動車事故に遭い、アゴにワイヤーを入れなければいけない大怪我をしたことから生まれた。

俺はチャンピオンだ

悲劇だって栄光に変えられる

炎のような音楽を作って 魂の言葉を放つのさ

このワイヤーを通して


アゴを怪我したことでラップが出来なくなるかもしれないという不安、それに打ち勝つまでの姿を正直に綴った歌詞は、多くのリスナーから賞賛を浴びた。
さらにはタイトルになぞらえて、チャカ・カーンの名曲「Through The Fire」が大胆にサンプリングされた。



彼は大胆な行動や楽曲作り、そして大きな野心によって世界を代表するラッパーへと成長していった。




(文・吉田ボブ)


Kanye West『College Drop Out』
Roc-a-Fella

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