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B‘zから「人懐っこさ」、チャンス・ザ・ラッパーからは「身軽さ」を感じ取ったMom 〜バンドマンでもラッパーでもない、21歳から感じる新しい予感〜

2018.12.10

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20世紀まではレコーディング・スタジオで録音されたものが、音楽として世に出て商品として流通していた。
しかし時代は移り変わり、演奏から録音、そして流通までパソコンやスマートフォン1台で出来るようになった。
いわば、頭の中に音楽があれば、誰でも発信できる時代がやってきたのである。

今では世界中のアーティストたちが当たり前のように、パソコンで曲を作り、それをネット上にアップロードしている。

最大のマーケットを持つアメリカでは、レーベルに属さずネット上でアルバムを無料配信して活動しているチャンス・ザ・ラッパーが、グラミー賞を受賞した。
すでに個人が自ら発信した音楽で、大きなムーブメントを起こせる時代なのだ。

Mom(マム)はそんな時代を象徴する、日本のアーティストである。
彼は筆者と同じ21歳だが、iPhoneで曲を作り、Sound CloudやYou Tubeで曲を発表することで、音楽活動を始めている。
まさにデジタルネイティヴというべき世代のミュージシャンなのだが、Momの音楽から感じるのは、「手作り」ともいうべき生々しさだ。

小学校1年生の頃から姉の影響で音楽を聴き始めた彼は、自然にミュージシャンへの憧れを募らせていたという。
そして9歳のMomの心をつかんだのがB‘zであった。

「稲葉さんってダサくて女々しい歌詞をたまに書くんですよ。その『情けなさ』がすごく好きでした」



多くの人が聴くポップスでありながら、どこか人間らしくて人懐っこい音楽に、Momは惹かれていったという。
その後、B‘zの影響から洋楽を聴き始めるようになるが、エアロスミスのようなハードロックよりも、オアシスやレディオヘッドのような繊細な音楽を彼は好んだ。

彼はロックバンドに憧れて高校時代には軽音楽部に入部するも、クセの強いバンドのメンバーたちと折り合いがつかず、すぐに辞めてしまう。
しかしそれが契機となり、自らパソコンアプリ「Garage Band」で、自らの楽曲を作り始めた。

それと同じ時期に出会ったのが、インターネット上にアップされていたチャンス・ザ・ラッパーのアルバム『Acid Rap』だった。



ヒップホップの持つ独自のリズムと、音楽としての身軽さに触れたことは彼にとって大きな転機となった。

「いままで聴いてきた音楽にはないものが詰まってて、言葉の乗せ方とかリズムも新鮮だったし、何より音楽を身軽にやってると思ったんです」

ロックが持つ「人懐っこさ」と、ヒップホップが持つ「身軽さ」。
彼はその二つが混ぜ合わさった音楽、「クラフトヒップホップ」を作り出した。


シンプルなギターリフのループの上に、素直な口語調で書かれたラップが響く。
そしてリフレインされる「I Wanna Be Your Boyfriend」というフレーズが、彼の独特な声とフェイクも相まって、頭から離れないような中毒性を持つ。

ロックともヒップホップともつかない新しさを感じさせがら、素朴な声とシンプルで素直な言葉は、彼がB‘zに感じたような人懐っこさを感じるものであった。

さらにはiPhoneや車の中で録音されたことによって生じるノイズや、ローファイな音もまた、Momのこだわりから生まれたものだ。

「そのままの音像でアプローチする人は日本にあまりいないと思うんです。」

「オモチャ感とかガラクタ感が好きなのに、これを日本でやったら『あの音が良いのに、キレイな音になっちゃうだろな』って。」


彼は最新のポップミュージックを生み出しながらも、曲の中に人間くささや温かみを忍ばせている。

2018年の10月にリリースされた初の全国流通盤『PLAYGROUND』も、そんなMomらしさが滲み出ている作品だ。



軽快なピアノと共に、「君のプレイリストに僕を加えてよ」というフレーズが印象に残る「That Girl」。
ローファイなバンドサウンドと打ち込みが融合したバラード「東京」など、アルバム・タイトル通りに、彼の遊び心が詰まったものだ。

「人懐っこさ」と「軽快さ」、そしてジャンルを超えた遊び心で音楽を作り出すMomには、今までの日本語ポップスになかったような言葉やメロディ、ラップが出てきてくる。
B‘zやチャンス・ザ・ラッパーがそうであったように、彼のポップソングは新たな時代のスタンダードになっていくのであろう。

(文・吉田ボブ)


(文中で引用されているMomの発言はOTOTOYのインタビューから引用しています)
https://ototoy.jp/feature/2018111402

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