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「彼女と観客のつながりが1991年のニルヴァーナと同じだった」 〜現代の若者のためのスター、ビリー・アイリッシュ〜

2019.04.01

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1990年代前半、ニルヴァーナは「ジェネレーションX」と呼ばれたアメリカの若者たちを熱狂させた。
鬱屈した感情や孤独を歌った楽曲は、当時の若者たちの心を掴み、ロックスターへと上り詰めていった。

そんな「若者にとってのスター」に新たになろうとしているのが17歳の女性シンガー、ビリー・アイリッシュだ。
ニルヴァーナのドラマーであったデイヴ・グロールは2018年に彼女のライヴを目にし、このように賞賛した。

「彼女と観客とのつながりが、1991年とニルヴァーナと同じだった。観客は全曲一字一句を知っていて、しかも自分達だけの秘密みたいな感じがある」

「彼女の音楽は定義するのって難しいんだ!どんな音楽と呼べばいいのか分からない!だけど本物なんだよ。だから俺はそれをロックンロールと呼ぶ」


(Foo Fighters のインスタグラムより)

ビリー・アイリッシュは2001年にロサンゼルスの郊外で生まれた。
両親は共に俳優、兄のフィニアスもバンド活動の傍ら14歳の頃から俳優として活躍している。
そんな家族の影響もあり、彼女は自然とロックやミュージカル、ヒップホップやダンスに興味を持つようになった。

自らも歌やダンスを創作したいと決心した彼女は、11歳の時に自作の曲を書きはじめ、コンテンポラリーダンスを習うようになる。
ある日、ダンス教室で兄と作った曲を口ずさんでいると、講師が耳に留めてビリーにこのように告げた。

「振付をしたいから、録音をしてきてほしい」

彼女は兄と共に楽曲「Ocean Eyes」を録音し、それを音源共有サイト「Sound Cloud」にアップした。



するとたったの一日で楽曲がSNS上で話題になり、楽曲の再生回数はみるみる増えていった。
幻想的なシンセサイザーの音と乾いたビートに乗せ、伸びやかな声で恋や恐怖心、孤独を歌った曲は多くの音楽ファンを驚かせた。
ビリーがまだ14歳の時のことだ。

このことがきっかけで本格的に音楽活動に取り組んだ彼女は、すぐに才覚を発揮していく。
翌年にはメジャーレーベルと契約。「Ocean Eyes」を含んだ9曲を収録したEP『don’t smile at me』をリリースした。




この作品のタイトルについて、ビリーはこのように語っている。

「『ほら、笑って。どうして笑わないの?笑ったほうがもっと素敵なのに』って言われるから。(女の子は)みんな、『スマイル』を教え込まれる」

「私は、自分以外の誰かに(笑顔を)見せる気はないからね。見せたいのは本当の自分自身」


その言葉の通り、彼女の一般的な通念や枠組みに囚われない言葉やメロディを紡いだ作品は、多くの若者たちから支持された。

アルバムのヒットにより世界各地をツアーで回るようになったビリーは、ライヴでも自らのスタイルを貫く。



ダボダボの上着と半ズボンという独特の衣装で、ステージを飛び回りながら歌い踊る姿は、彼女の自由さを表現したものであった。

「人と同じ格好をして、どんな意味があるの?もしそういう格好をしている人がいるんなら、自分なりの格好をすればいいのよ。
何が欲しいか、どんな人間になりたいか、何を着たいか、誰みたいに見られたいか、私はいつもわかってる」


自分を偽ることなく表現しているからこそ、同世代の若者の胸を打ち、大きな熱狂を生み出しているのだ。

2019年3月29日にリリースしたアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』は孤独や欲望、葛藤をテーマにした作品だ。




彼女の笑い声から始まるこのアルバムは、不穏な響きのトラックや、ポップでありながら冷たいメロディが印象的な楽曲が並ぶ。

先行して発表されたシングル「burry a friend」の歌詞やメロディ、アレンジからも、ビリーが既存のポップミュージックの枠に捉われず表現者として成長していることがうかがえる。

私から何が欲しいの? 何で私から逃げないの?
何を考えているの? 何を知っているの?
なぜ私を恐れないの? なぜ私を気にするの?
私たちは眠るとき、どこへ行くの?




デイヴの言葉通り、彼女はかつてのニルヴァーナのように新しく、かつ若者の心を掴むような楽曲を今の時代に作り続けているのだ。


※文中でのビリー・アイリッシュの発言はSSENSEに掲載されたインタビューより引用しています。

「ビリーが微笑むとき 臆することなく自己主張する16歳の新星シンガー、ビリー・アイリッシュ」


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