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ジャズ研で鍛えられたメロディ・センスが光る畳ロック~キイチビール&ザ・ホーリーティッツ

2019.04.08

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2016年より活動を始めたキイチビール&ザ・ホーリーティッツは、今とても注目を集めているバンドだ。
ヴォーカル&ギターのキイチビールを中心に、KD(ヴォーカル、コーラス)、橋本=タフネス=樹(ベース、コーラス)、りょう(キーボード)、タカヒロ(ドラムス)の5人からなり、KD以外は大学のジャズ研究会(以下、ジャズ研)の先輩後輩という間柄でもある。
しかし演奏するのはジャズではなく、上質なメロディ・センスを感じさせるロックだ。

全てのソングライティングを手がけるキイチビール(以下、キイチ)は、高校の吹奏楽部で担当していたコントラバスを続けたくて、大学のジャズ研に入った。そこで色々なジャズの名演奏を聴き、様々なセッションを重ねる中で、コード感覚とともに、アドリブの中で自分のメロディーを見つけるという部分などが鍛えられた。

しかし、次第にテクニックを競う運動部のようになっていったジャズ研に嫌気がさして辞めてしまう。
そんなときに心惹かれたのがブラジル音楽、中でもジャヴァンの削ぎ落とされたシンプルなメロディーだった。
そして次第に、こどもの頃に聴いていたホフディランやThe ピーズ、トモフスキー、ボ・ガンボス、フィッシュマンズを再び聴くようになり、彼らの音楽の良さを再発見することとなる。

キイチが最も影響を受けたのが、ホフディランとThe ピーズと語るように、90年代のロックの香りを漂わせつつも、はっぴいえんどなど昭和の時代からのロックを、正しく受け継いでいるところも感じられる。ポップでキャッチーなメロディーでありながら単純にはならず、聴く者のハートをぐいっと掴むメロディーのセンスは、やはりジャズ研時代に鍛えられた賜物かもしれない。
そして、時に80年代風のドリーミーなシンセサイザーの音がポップさを演出し、紅一点のKDのコーラスが爽やかな透明感を添えていて、そのバランス感覚が心地いい。

2018年にリリースされた彼らの1stアルバム『トランシーバ・デート』は、そんな彼らの良さがぎゅっと詰まったアルバムだ。

「たまらない夜」



また歌われている歌詞も、キイチの等身大の心象風景が綴られる。
岩手県出身のキイチは、大学入学直前に2011年3月の東日本大震災で被災している。
彼自身の家や家族は無事だったので、5月から東京へ出て大学に通うことができたが、亡くなった友人や知人、進学を諦めざるを得なかった友人もいた。しかし、東京で生活をしていると震災のことも忘れ、大学を留年したうえに、就職もせずにバンドに明け暮れていたことに、後ろめたさを感じていた。そんな焦燥感の中から生まれた歌が「パウエル」だ。この歌を書いたことで、彼自身の心の中が整理されたのだという。

ガラクタまみれの部屋で暮らして
色んなことがダメそうだ


と途中では歌われているが、

悲しい影を空に浮かべて
色んなことがやれそうだ


と、ラストには前を向いている歌詞がとても印象的で心に響く。

「パウエル」



新元号「令和」に変わる5月には、彼らの2ndアルバム『鰐肉奇譚』のリリースが予定されていて、6月にはアルバムのリリースに伴うワンマンライブのツアーも予定されている。



このアルバムにも収録される新曲「今夜浮かれたい」は、昨年の酷暑の真夏に電気を止められた中で書いた楽曲だという。ミュージック・ビデオもキイチが実際に住んでいるアパートで撮影されていて、彼自身も自分たちの音楽を「畳ロック」と形容するなど、メンバー全員が平成生まれであるにもかかわらず、なぜだか限りなく昭和の香りがして不思議だ。
そんなキイチビール&ザ・ホーリーティッツから、今目が離せない。

「今夜浮かれたい」



参考サイト:OTOTOY キイチビールインタビュー~キイチビール&ザ・ホーリーティッツを構成する音楽とは?ー穴だらけのポップスに垣間見る意志の強さ
https://ototoy.jp/feature/2018020701

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