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コーヒーの香りと音楽と(後編)~平成の“喫茶店的”な音楽を集めた『喫茶ロックNOW』

2019.05.06

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~前編はこちらから
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平成のカフェ・ブームの最中の、2001年~2002年にかけてリリースされたオムニバスのシリーズ『喫茶ロック』。
このアルバムは、1970年代の日本のフォーク・ロックなどを中心にコンパイルされたものだったが、2002年1月には『喫茶ロックNOW』として、2000年代当時の日本のアーティストの音源を集めたアルバムがリリースされた。

喫茶ロック委員会によると、そもそもこのシリーズを始めるきっかけとなったのが、この『喫茶ロックNOW』だったという。

今の時代を生きる私たちにとって、重要なのは今の音楽という考えも一理ありますが、過去にもこのCDで聴けるようなポテンシャルを持った作品がたくさんあることを知っていて損はしないと思うのです。むしろそういったルーツを知ることで今の音楽を別の角度から楽しむこともできるでしょう。

と、ライナーノーツでは『喫茶ロックNOW』をきっかけに『喫茶ロック』のシリーズで彼らのルーツでもある70年代の音楽に触れてみてほしいと促している。
また、今の音楽をきっかけにルーツを遡って聴くというような、これまでなら一部の熱烈な音楽ファンに限られていたような音楽の楽しみ方を、もっとカジュアルに指南したと言ってもいいかもしれない。

1989年に平成が始まって、90年代には渋谷系と呼ばれる洋楽的な洗練された日本のポップスがブームとなり、その中頃にはサニーデイ・サービスなどの70年代的フォーク・ロックに回帰するようなバンドも現れた。
そんな時代の移り変わりの中で、2000年代という平成も10年を過ぎた頃に、喫茶ロック委員会によってセレクトされた楽曲は“喫茶店的”でもありながら、カフェでも心地よく聴けるような洗練された楽曲が並んでいる。
特に、キリンジやくるり、空気公団、MAMALAID RAG、クラムボン、キセルなど、当時音楽ファンの間では知名度のあったアーティストに並んで、あまり知名度も高くないインディーズのアーティストなども取り上げていて、それらの楽曲のポテンシャルの高さに、喫茶ロック委員会の熱量がここでも感じられるのだ。

令和の時代に入った今、そういった彼らの音源も今後、日本のレア・グルーヴとして楽しむことができるのではないだろうか。

benzo「落下ドライブ」



チキ サウンズ「novels」


Clingon「手紙」


先述のように、この『喫茶ロックNOW』を手に取った若者たちに向けて、『喫茶ロック』のシリーズの過去の音源を聴いてみることを、喫茶ロック委員会は勧めている。
しかしこの『喫茶ロックNOW』がリリースされる前に、『喫茶ロック』シリーズがリリースされていることから、もしかすると70年代のこれらの音楽をリアルタイムで聴いていた世代が、このシリーズを手に取った流れでこの『喫茶ロックNOW』を手にし、当時の“今”の音楽と出会うきっかけになった、という逆の可能性も大いに考えられる。
“喫茶店的”という括りで選曲されていることにより、『喫茶ロック』も『喫茶ロックNOW』も世代を超えて双方向に楽しめるのが特徴だと言えるだろう。

ここ数年再び、カフェに飽きた若者の間でひそかに純喫茶が注目されているらしい。
かつて松本隆は、喫茶店の窓際から眺める街の風景からインスパイアされ、数々の名曲の詞を生み出した。そして細野晴臣は、最近街中に喫茶店がずいぶんと少なくなってしまったことを、先日ラジオで嘆いていた。喫茶店が音楽文化に与えてきた影響は少なくない。
しかし、カフェにもカフェの音楽があった。

時代が変わっても、音楽はいつの時代もコーヒーの香りとともに。



空気公団「レモンを買おう」


MAMALAID RAG「春雨道中」


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