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友部正人に出会って音楽を始め、クラブミュージックに出会って新たな音楽を生み出したサカナクション

2019.06.24

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2006年に鮮烈なデビューを果たしたロックバンド、サカナクション。
フォーキーなメロディと文学的な響きを持った歌詞、そしてダンスミュージックが一体となった楽曲で、多くのリスナーから支持されている。
ポップさと新しさが同居した彼らの音楽の原点には、バンドのフロントマンである山口一郎の幼少期の体験があった。

北海道の小樽で生まれた山口は、両親が喫茶店を営んでいた影響で、幼い頃から海外のフォークやロックを聴いて育った。
それに加え、親戚の影響で宮沢賢治や萩原朔太郎などの文学作品も読み漁るようになる。
様々な芸術に慣れ親しんでいた彼が、音楽を始めたきっかけは、実家の喫茶店に友部正人が訪れたことだった。

「昼は喫茶店、夜はバーみたいな感じでちょっとしたステージがあって、いろんなフォークミュージシャンがうちの店を使ってたんです。中でも友部正人さんが歌ってたのをよく覚えていて、それが生まれて初めて見たライブだったんですけど、それで自分も音楽をやってみたいなと思った」
(MANTAN WEB 2012年9月1日 インタビュー より)

アコースティックギターだけで、語るように叙情的なメロディを歌う友部の姿は、幼かった山口にも大きな衝撃を与えた。




彼は友部が歌った実家のステージで、「なごり雪」などの往年のフォークソングを弾き語るようになる。
高校生になると自らが作詞と作曲を担当するロックバンド「ダッチマン」を結成。フォークミュージックや文学に影響を受けた歌詞やメロディが、徐々に注目される。
しかしロックバンドとしての方向性に行き詰まりを感じ、山口以外のメンバーが脱退してしまう。

バンドとは異なる形で音楽活動を続けることを決意した山口は、クラブのDJを始める。
DJとして活動していく中で、電子音楽のリズムをループし、コントロールしていくことから新たな音楽のヒントを得る。

「(クラブミュージックは)俳句や短歌のように決められたリズムの中で美しさを競うというか、何かを隠喩したり比喩したりすることにつながる気がして」
(MANTAN WEBインタビュー より)

山口は日本語ロックにクラブミュージックを掛け合わせることで、新しい音楽を作り出す可能性を感じたのだ。彼はかつての音楽仲間たちを集め、2005年にサカナクションを結成する。
そしてダッチマンズ時代に制作した楽曲に、テクノサウンドを取り入れたアレンジを施した。
自主制作音源ながらもそれが地元のカレッジラジオで人気を博し、注目を集めていく。
そして、2007年にメジャーデビューを果たすと、翌年セカンドアルバム『NIGHT FISHING』をリリース。
アルバムに収録された「ナイトフィッシングイズグッド」は、山口が目指していた叙情的でフォーキーなメロディと、エレクトロミュージックを融合させたような楽曲になった。




「ボヘミアン・ラプソディ」のようにバンドサウンド、エレクトロサウンド、オペラのようなコーラスなどが目まぐるしく変わる。
そして歌詞における巧みな情景や心理描写は、サカナクションのルーツを素直に表現したものでありながら、革新的なものとなった。

山口はこの頃、サカナクションが目指している音楽をこのように語っている。

「エンターテインメント性の高い、メジャーな音楽と、もっとアンダーグランドなテクノだったり、その中間にいるアーティストになりたいなって。それを目指しているうちに、どんどん駆け上がっていったというか。」
(Skream! インタビューより)

この言葉の通り、彼らは特異的な存在としてメジャーなアーティストへと成長していった。

2019年、サカナクションは6年間かけて制作したアルバム『834.194』をリリースした。





小樽と東京の間の距離を作品名に据えた今作は、サカナクションのエンターテイメント性とアンダーグラウンド性を、2枚組18曲というボリュームでて表現した集大成のような作品だ。
相反する両極端な音楽を表現したものでありながら、収録された楽曲たちに通底しているのは、山口が幼い頃に体験したフォークミュージックのような文学性と叙情性、そして普遍性である。





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