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向井秀徳がプリンスの中から感じた「毒個性」 〜強烈な個性を放ち続けるNumber Girlの原点「OMOIDE IN MY HEAD」〜

2019.08.19

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2019年の2月に再結成をした日本のロックバンド、Number Girl。

1990年代後半に福岡から登場した彼らは、荒々しいギターサウンドと浮遊感のある日本語詞で、ロックリスナーたちを熱狂させた。
そしてのちにデビューしていく日本のアーティストの多くが、Number Girlの音楽に多大な影響を受けた。
その中の一人に、シンガーソングライターの星野源がいる。彼らの代表曲「透明少女」をライブで頻繁にカバーする星野は、自身のラジオ番組でNumber Girlについてこのように語っていた。

「いろんなバンドがパクろうとして、真似しようとして、取り入れようとしたけれでも、ついぞどのバンドもあのバンドを超えることができなかったし……もちろんね、その魂だけを受け取って自分の思うオルタナティヴ、自分の思うパンクをやるのだと俺は思いながらやってきたので、影響をものすごい受けているんですけれども。」
(ニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』より)


星野のこの言葉の通り、Number Girlは真似できないほどの強烈な個性を持ったバンドだ。その根幹にはバンドのフロントマン、向井秀徳の存在がある。彼が作り出す言葉とメロディには、海外のオルタナティヴ・ロックや日本語ロックの影響を感じさせながらも、既存の音楽にはない強烈なオリジナリティがある。
そんな彼の音楽の原点は、意外にもプリンスであった。

福岡県で幼少期を過ごしていた向井は、SF映画や青年向け漫画に触れながら育った。年が離れた姉と兄の影響で、同年代の小学生に比べてやや早熟であったのだ。
とりわけ、音楽好きの兄は彼が小学校高学年になると、様々なアルバムを聴かせるようになる。それはMTVで流れているポップな音楽に比べて、ややマニアックでアーティスティックな作品が多かった。

そんなふうに様々な作品を聴いていく中で向井が大きな衝撃を受けたのが、プリンスの『Sign O’ the Times』だった。




最初はわけも分からず聴いていたが、だんだんとプリンスが作り出す音に、魅入られていったのだ。のちに向井は、プリンスから受けた影響を「毒個性」(毒を食ったように強烈な個性)という独特の表現で語っている。

「別に驚かせようとしているわけじゃない。ときに、エンターテインメントとして、パフォーマーとして、人をワッと驚かせて、楽しませることが必要だと思うけど、私は至ってナチュラルな気持ちでやっていて。『自分』という個性をもってして、あなたにショックを与えたいんです。」
(CINRA.NET インタビュー 『向井秀徳が語る、音楽に向かう原動力』)


彼はこの言葉の通り、高校生になって自ら音楽を作り始めると、自らの体験や衝動を楽曲の中に込めていった。
そして高校を卒業すると本格的に音楽の道へのめり込み、「ナンバー・ファイブ」というアーティスト名で活動を開始する。

最初は音源を一人で作るだけのユニットであったが、福岡のアマチュアバンドと関わっていくうちに、バンドメンバーを集めていく。
そして、向井の友人であったベーシストの中尾憲太郎を中心に、ギタリストの田渕ひさ子、ドラマーのアヒトイナザワが集まりNumber Girlは結成された。
メンバーは全員、向井のように強烈な個性を音に込め、それぞれが異なるサウンドを鳴らすプレイヤーであった。

バンドとしての自信を持った彼らは、福岡で怒涛のごとくライブを続けた。そして活動を始めてから2年が経った頃、すべて一発撮りで制作されたアルバム『SCHOOL GIRL BYE BYE』を発表する。
アルバムの一曲目に収録された「OMOIDE IN MY HEAD」は、今でも愛されるNumber Girlの代表曲の一つだ。




風景と心情、記憶と現実が入り混じったような向井の歌詞と、吐き捨てるように歌うシャウト、そしてそれぞれの楽器のサウンドが渾然一体になったようなこの楽曲は、向井が目指した「毒個性」に溢れたものであった。

この曲は2002年の解散ライブで最後の曲として演奏され、再結成後のライブでもライブの前半に演奏されている。
Number Girlが人々に知られるようになった作品に収録された「OMOIDE IN MY HEAD」は、強烈な個性を持った彼らの原点であり続けている。


NUMBER GIRL『SCHOOL GIRL BYE BYE』
K.O.G.A Records


(参考文献)
『三栖一明』向井秀徳 Gambit 刊
「レコードの回転数を間違えたと思った」向井秀徳(ZAZEN BOYZ)が選ぶ「不滅の名盤」×「MUSIC SOUP」 TSUTAYA Web

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